複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.2 )
- 日時: 2013/01/02 20:36
- 名前: 藍永智子 −アイナガサトコ− (ID: gHpB4F6k)
一瞬の沈黙——。
雲に隠れていた月が姿を現し、辺りを不気味に照らし出す。再び雲が月を覆い隠し、闇につつまれた——その時だった。
「——異形のモノよ、闇に還れ!」
少女はそう言うと、印を結び、短い呪文のようなものを唱えた。そして、こう叫んだ。
「——滅!」
雷が天から降ってきて悪霊を貫く。
そんな様子をあざ笑うかのように少女は笑っている。
「ほら、こっちに来なければ良かったのにね。あなた、もう助からないから。……ま、冥途のお土産にでも私の話を聞いていってちょうだい。……私の名前は、桔梗。彩蓮桔梗っていうの。さっき、私があなたに斬りかかったのは、いくら低能のあなたでも覚えているよね。だけど、斬られたはずのあなたは、全く痛みを感じなかった……。何でか分かる?」
一旦、言葉を切る。
「だって私、あなたの事なんて、これっぽちも斬っちゃいないんですもの」
これっぽちも斬っていない——そう桔梗は言った。だが、彼女の手に握られている日本刀には、生々しい血がべっとりとこびりついている。一体、どういうことだろうか?
「こーんなちっちゃな刀で、あなたみたいなデカブツ、斬れるはずがないじゃない。……だから私は、あなたの核となる部分に——このお札を埋め込んだ」
桔梗は胸のあたりで、薄っぺらい、長方形の紙をひらひらと振って見せた。ふちが朱色に染まっていて、中央には何かのシンボルマークのようなものが堂々と描かれている。
「そして呪文により霊気を高め、『悪に害を成す』と言われている雷を呼び出して、私の手を汚さずにあなたを退治した。——どう、完璧じゃない?」
悪霊の体に縦に亀裂が走り、少量の紫色の血が噴き出す。
「さようなら、悪霊さん。——もう二度と、会うことが無いように祈っています」
桔梗がそう言い終わったと同時に、悪霊は真っ二つに裂け、そのはしの方からどんどん体が消えていった。
紫色の血の雨が降る中、少女が泣いていたように見えたのは、この血が見せた、幻だったのだろう……。