複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.4 )
日時: 2012/10/17 20:14
名前: 藍永智子 −アイナガサトコ− (ID: qrBpqQ.I)

 この、一風変わった少女の名は、彩蓮桔梗サイレンキキョウ。平凡な家庭の一人娘として生まれ、つい最近までは平凡に暮らしてきた。
 ——が、ある事件をきっかけに少々変わった能力が生まれ、悪霊や幽霊、妖怪などの……いわゆる「非科学的」なものが見えるようになってしまったのである。そのなかの一握りくらいは友好的なのもいたりするが、本当に仲良くしたいだけのものは、さらにそのなかの一握りくらいしかいないわけで。ま、普通ならば大人しくしている……はずなのだが。
 そんなふうにして、桔梗は目の回るような毎日を送っていたのだが、それにとどめをさすような出来事が起きてしまった。

 それは先日の事——。

 いつものように街をぶらついていた桔梗は、(今まで何度も遭遇したことはあるが、ずっと無視され続けてきた)幽霊に会った。
 気味悪ッ、とか思いながらも、ごく自然に素通りしようとしたその時!
 耳をつんざく悲鳴のような叫び声を発しながら突然襲い掛かってきたではありませんか! それに驚いた桔梗は、周りの目も気にせず一目散に逃げたが、胸のなかにはモヤモヤと疑問が残っていた。


 ——何故、いつもは大人しい幽霊が突然、狂暴になったのか。


 不思議な出来事はそれだけでは終わってくれなかった。
 次の日、桔梗が昨日とは違う所をふらついていると、今度は異なる幽霊に襲われ右手に軽い怪我をしてしまった。その次の日は女の幽霊に思いっきり強く蹴られ、さらにその次の日は不気味な妖怪に変な汁を振り撒かれ、またまた次の日は闇にひそむ悪霊に噛みつかれ——といったふうに、事態は収まる気配すら見せてはくれなかった。それどころか、どんどんひどくなり、現在では一日に何十回と襲われることも珍しくはない。そのため、今では常に武器を持ち歩くようにしている。
 そんなこんなで、いたって平凡だった桔梗の日常は、もうどこかへ行ってしまったのである。
 たとえ寝ていても、家族と話していても、学校にいても、出かけていても、ほかの人に変な目で見られても——生き残るためには、戦って倒さなければいけない。
 現に今も、部屋でくつろいでいた時に襲われたため、家族には内緒でこっそりと抜け出してきて来ている。
 そんな生活を送る桔梗の体は、もはや限界に近かった。
「頭くらくらする……。家、帰んなきゃ」
 頼りない足取りで、桔梗は、自分の家の方へと一歩を踏み出した。

               *

 自分の気配を消しつつ、窓から垂らしておいたロープを使い、こっそりと部屋に戻った。
 ふと時計を見ると、十二時を大きく回っている。

「うわっ、明日学校あるのに」

 慌てて帽子と靴を脱ぎ、布団にもぐりこんだ。意識がすっと沈んでいく。今夜はなにもなさそう、と思っていたのだが、人生、そう甘くはないようでして……二時間二十六分十三秒後、やつらが一匹家に近づいてきたのを感じたので、クローゼットに閉まってある武器を適当に選ぶと、眠い目をこすりながら、桔梗は、再び窓から飛び出していった。