複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【久々更新です!!】 ( No.100 )
日時: 2013/02/25 15:57
名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: ZSo5ARTM)


「ねえ、出てきてよ。私の血は見せてあげられないけれど、代わりにあんたを殺してあげるから」

 こんな恐ろしいことをさらっと言ってのける桔梗の口調はとても愉しげで、一層不気味な雰囲気を醸し出していた。
 声のしている一点だけを見つめる視線は一切微動だにせず、瞳には何処か面白がっているような——それでいてどこかを恐れているような——光が、先程から浮かんだり消えたり、せわしなく動いていた。
 声のトーンは普段よりも若干高めだ。

 これだけ作者が頑張って書き連ねた描写があれば、きっとお分かり頂けるだろう。


——桔梗がいよいよ狂い始めていた、ということに。


                 *

 この世界には、今現在自分が体験していて更にこれからも経験していくことになるであろう「時間軸」以外にも、幾つかの「時間軸」があると考えることが出来ないだろうか。所謂、パラレルワールドというものだ。
 出来ない、出来る、もしくはそれ以外にも様々な答え方があるだろう。——しかし、ここから先はそうであると仮定させてもらったつもりで進めさせていただく。

 そもそも桔梗は、ごく普通のサラリーマン家庭に生まれた、ごく普通の女の子だ。
 何にも問題が起こらず、何にも干渉されずに過ごしていたならば、桔梗は「妖怪」や「陰陽師」などといういかにも怪しげな裏社会と関わることになどならなかった筈である。
 平穏だが、それでいて命には関わらない程の波乱が時々あるぐらいの、とても恵まれた暮らしが待っていたのに。万年睡眠不足に悩まされることなんて無かったのに。

 それならば、一体桔梗の人生はいつ、どこで分岐点を迎えてしまったのだろうか。

 もしそのように桔梗本人に問うたならば、すぐに答えは返ってくるだろう。——「そんなの知ったこっちゃないわよ」とでも。
 それならば、此処で教えて差し上げようか。

 答えは単純明快。「そうなると定められていたとき」だ。

 桔梗が事故に合ったのも、それがきっかけで妖怪が視えるようになったことも、今の学校に通っていることも、あやめと出会ったことも、しょうぶに出会えたことも、「何か」に定められた範囲内で起こったことであると考えられないだろうか。
 一見自分に与えられている選択肢はとても少ないように見える。——しかし、その選択肢は既に膨大な量の中から選び抜かれ、厳選されたものである、と考えてみたら。

 そんな突飛な理論が成り立ってしまうような世界に住んでいる桔梗は、なかなか経験したことのあるという人は見つからないであろうと思われるぐらいのストレスが付き纏うような生活を強いられている。
 そのような状況下にいつまでもいれば狂い始めたって、おかしくはない。——桔梗はついに狂わずにはいられなくなった、ということだ。

 つまり、ストレスフルの生活をしなければならないのも、妖怪に日夜を問わずに襲われ続ける羽目になったのも、全ては自らの選択の結果で。

 自らが選んだモノの結果として悲劇が起こってしまったのであれば、それを止めるだけの責任があることも事実で。


 桔梗が闘いを強いられるべき理由は、此処にあったのだ。