複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【キャラ絵new!!】 ( No.115 )
- 日時: 2013/03/16 21:01
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: EFgY0ZUv)
「あの、ところで——」
桔梗はそのまま続けようとしていたのだが、有理の瞳に真っ直ぐと見つめられていると——珍しいことに青い色をしていた——何だか居心地が悪くなってきて、続けようか否かを躊躇わせた。
そんな様子を見て取ったのか、有理は瞬時に笑みを浮かべる。
「『ところで』どうかしましたか? そんなに緊張しなくてもいいんですよ」
「はあ、すみません」
言い返す口調こそはつっけんどんな感じになっていたが、内心では大分緊張もほぐれ、落ち着くことができていた。——まるで、有理の笑顔は魔力を持っていて、その魔法にかかってしまったのように。
こんな突拍子もない発想が自然と出てきてしまうくらい、有理の笑顔はそれを見ている人に何とも不思議な影響を与えるのだ。
すっかり普段の調子に戻ることができた桔梗は、時々困ったようになって、そしてそのたびに言葉を選びながら、ゆっくりと慎重に思いを言葉へと直す作業を進めていった。
「昨日あやめに聞いた話によると、私の警護は彼女が担当する、っていうことだったんですけど、安城さんはどうして急にその役を務めることになったんですか? それに、今まで面識も接点もまったくないですよね。だから一体どうしてなのかな、ってすごく気になって……」
「あー、やっぱり気になりますよね、そこ」
有理は、当たり前の反応ですよ、と言いながらもっともらしく頷く。
「やっぱり情報伝達の遅れが原因なんですけどね。昨晩の会議で決まったことをかいつまんでご説明致しますと——」
そこまで言うと有理は、昼間の桔梗の警護はあやめが、夜間は月輪が担当するということ、ここら付近一帯の防衛策については一切を月輪が請け負うということ、基本的にシフトに組み込まれる人材は月輪の防衛班所属の人で、それ以外からは非常時にのみ限るということ、『ハチ』内部の情報を得る可能性があるため、主要人物が通っている高校へと潜入捜査を実施するということ、などを分かりやすく——それでいて、無駄なく簡潔に——説明した。
その説明はまるで流れるかのようで、桔梗は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
これに対しても、有理の態度は手慣れたものだ。「これで説明足りるといいんですけど」と照れたように笑いながら言って、片手でさりげなく頭を掻く。
桔梗はそれが意識し、なされた行為だとは考えもしなかったらしいが。
有理が言った。
「実は私が今日くるってなったのは、ついさっき決まったことなんですけどね。何度も言うように昨晩の会議は遅くまでかかったらしく、星宮のご当主はだいぶお疲れのようでしたので、予定がフリーだった私が急きょ代理に入ることになったんです」
聞いているうちに、桔梗にも話が呑み込めてきた。
有理が「お疲れ」だから、と何とも優しく言い表しているものは、要するに「疲れた」し寝るのが遅かったから「寝坊した」ということなのだ。
確かに警護役が寝不足だと、万が一襲撃されたとしても通常通りの力が発揮できないかもしれなく——そう考えれば、有理がわざわざ出張ってきたことも正しい選択であるかのように思える。
「ホントに迷惑かけてすみません」
桔梗が謝る筋合いはない筈なのだが、親友の粗相を見過ごせなかった気持ちを有理は汲み取ってくれたらしく、桔梗が気兼ねすることのないように、とさりげなく気遣いながら返事をした。
ふと、有理が視線が桔梗の顔からあげられ、何かを探し求め、室内をくまなく動き回った。——と、ある一点でその動きが止められる。
「そろそろ出発したほうがいいですよね、遅刻したくないのならですけど」
「え?」
言われるがまま壁にかけられたシンプルな造りの時計を見ると、確かに針は急がなければいけないような位置を指し示していた。
「……確かにそうですね。少し待っていてください、鞄持ってくるので」
桔梗は、そう言うがいなや室内を慌ただしく動き回り、宣言通り「少し待ってい」ると、すっかり用意をすませ終えた。
「行動が素早い人は好きです! ——それでは、行きましょうか」
何故か興奮した様子の有理を不思議そうに見つめる。
まだ在宅している両親に怪しまれないためにも、桔梗はいつも通りに玄関から、家にいることさえ知られていない有理はこっそりと窓から家を出て、門の前で二人は合流した。