複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照1000突破!!】 ( No.120 )
- 日時: 2013/03/24 21:03
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: O9OgBXhu)
(——っ! 安城さんは!?)
衝撃の余波が辺りの空気をかき回して作り出した風が、顔に、腕に、体全体に吹き付けてくる。それは、全身を押さえつけて動けなくするくらいの力を持っており、桔梗は砂埃を防ごうと両腕を顔の前で交差させるだけで精一杯だった。
光は徐々に薄れていき、それと同時に、桔梗はようやく有理の姿を見つけることができた。
「安城さん!」
叫び声は届いたらしく、有理はこちらを振り返り、桔梗の位置が目視できた途端、慌てて走りながら近づいてきた。
仮面から覗く青い瞳が、心配そうに見つめている。
「派手にやってしまいましたね、すみません。お怪我はありませんか? 敵にやられる以前に私がやってしまった、とかシャレにならないんですけれど」
「……私は大丈夫です、けど」
さりげなく笑える部分を入れてくるあたりが、有理がいかに戦闘に慣れているか、ということを物語っていた。
かすり傷一つない有理を見たことで安心し、気が抜けかかったのか、少し唖然とした様子の桔梗が、見せかけだけでも恰好をつけようと——頬を引き攣らせながら——笑った。
「安城さんこそ大丈夫なんですか? さっき数メートルくらいの高さから落ちてきませんでした?」
答えと表情が相反している、とは正にこういった場合を指すのであろう。
有理はこれ以上ないというくらい満面の笑みを顔いっぱいに湛え、答えた。
「そのぐらいで死ぬはずありませんよ、人は。特にそれが「私」の場合だったら尚更ありえませんしね。多分、百メートルくらいから落とされても生きてると思いますよ?」
「は?」
数メートルならまだしも、百メートルとは随分穏やかではない話である。
さらっと放たれた爆弾発言に凍りつく桔梗を横目に、有理は更に驚くべき内容の話を続ける。
「前にいったことありましたよね、私の気配は人より妖怪に近い、って。——「これ」はそれと同じことなんです」
その後に有理が言ったことをまとめるとこうなる。
有理は幼い頃、妖怪に襲われたことがあり、その時に死線を彷徨うような大怪我を負った。何とか一命は取り留めたものの、その時から有理の存在は妖怪へと限りなく近くなり、それに応じて様々なことが出来るようになった、と。
百メートルから落とされても死なない、ということもその一例だ。生命力、治癒力、回復力——そういったものが妖怪に近づいたために高くなったのだ。
「普段は服に隠れているから分からないんですけど、背中に大っきな傷跡が残っているんです。だから……」
——それが妖怪の力を私の身体に与え続けているんだろうな、って。
「……怖い、って感じたことありませんか」
思わず聞いてしまったが、桔梗は言った瞬間に後悔した。
普段は相手が不快にならないかどうかなどを考慮してから口に出すようにしているのだが、この問いは口をついて飛び出してしまったため、聞き方に一切の配慮がなされていなかったからだ。
苦虫を噛み潰すような思いで有理の言葉を待っていると、以外にも明るい調子の返答が返ってきた。
「怖い、ですかあ。……確か最初の頃はありましたね、なんで一族の中でも私だけが「あちら」側に近いのかなって」
でも、と言いながら、有理は明後日の方向を向いた。
「でも、そんな葛藤と差別する人の存在を少し我慢するだけで、こんなに強大な力を得ることが出来たんですから——寧ろ、嬉しいくらいです」