複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照1100突破!!】 ( No.125 )
- 日時: 2013/03/28 12:16
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: VppVA6tq)
先程の攻撃は渾身の一撃だったのか、有理は相手の息の根を止められていない可能性にまで思い至らなかったらしく——そのせいで、桔梗が感じ取っていた微かな違和感にも気付くことが出来なかった。
「……何か、おかしくありません?」
「え? 私は特に何も感じませんけれど」
ここまで断言されてしまえば、桔梗も「自分の思い違いだ」と思わざるを得ない。
だが、それでも「何か」は確かに桔梗のアンテナに引っかかっているのだ。
(一体、何が……)
数々の闘いをこなしていく内に、桔梗は「存在しているモノ」であれば、気配を感じ取れるようになったし、気配から相手の位置を探り当てることをも出来るようになった。
「何か」がアンテナに引っかかるということは、即ち、気配があるということでもある。
それならば、相手の位置を探り当てることだって可能な筈なのだ。
有理から学んだことだが、目を閉じ、視界を狭めて気配を感じ取ることにだけ集中する。
(気配があるのは——————後ろ!)
ほぼ反射的に桔梗は後ろを振り返った。
回転する視界の隅には、不安気な表情の有理が、一つに結ばれている桔梗の象牙色の髪がたなびく様子が映る。
そして——。
「どーも、地獄の淵から舞い戻ってきました!」
その声の主は、咄嗟に振り返った桔梗の額にコツンと自らの額を当てていた。
気が動転していたためか、先程までは落ち着いて服装などを見ることができていなかったのだが、ようやく桔梗は相手の全体像を見る事ができた。
声の調子から女だというイメージを描いていたのだが、以外にも、女とも男とも言い切れないような、中性的な印象を与えられた。
「そんな簡単に死ぬ、とか思われちゃ妖怪様方の名折れだなア」
相手があまりにも落ち着き払っているため、もしくは、二度も死角をとられた、という恐怖があるためなのか——桔梗は、敵が眼前にいると分かっていても動くことが出来なかった。
「……っ!」
ようやく有理も事態を察したらしい。
妖怪を視界にとらえると、まるで幽霊でも視て衝撃を受けたかのような顔になった。
……いや、もともと妖怪なのだから、結構それに近いのだが。
依然衝撃を受けている様子の有理が、呟く。
「何故」
ヒトの形をした妖怪は満足そうに嗤った。
「何でまだ生きてんのかって? 不思議でしょう、そりゃそうでしょう。でも答えはさっきアナタが言ったばかりなんだヨ?」
言われて気が付いたらしい。有理は一文字ずつ区切るようにして、ゆっくりと口にしていく。
「そのぐらい、で、死ぬはず、ありませんよ……?」
「そうそう、まさにその通り。ワタシを殺すのなら骨が折れるような仕事になっちゃうしネ?」
「……じゃあ、このまま見過ごせとでも仰るのですか」
常に軽い口調でいる妖怪とは裏腹に、いくら動揺しようと敬語を使おうと努める有理。
幾つか種類がある敬語は、話している相手、または話題にあがった人物を敬ったり、立場の関係を明確にするものだ。——だが、敬語とは時として鋭利な刃物になり得るのだ。
有理は、その刃物が必要になるときがあるからこそ、敬語を使い続けている。
「貴方がもしそう仰るのであれば、私は今度こそ——息の根を止めてやりますから」
声たからかに宣言する有理の姿は、恐怖に凍りつく桔梗からは、とても頼もしく感じられ、まるで正義の塊であるかのようにも見えた。