複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照1100突破!!】 ( No.126 )
- 日時: 2013/04/03 20:05
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: L0k8GmDX)
張りつめた弦のように、ぴりぴりとした空気は、異様なまでの緊張感に次詰めれていた。。
——数秒、いや数十秒後だったかもしれない。
互いに向き合ったまま硬直状態になっていたが、その妖怪は不意にふっと表情を緩め、くくくっと喉の奥で小さな笑い声をくぐもらせた。
「あはは、ゴメンナサイね。アナタがあまりにも自信過剰で面白かったのでネ」
「……つまり、私のは強がりだとでも?」
漆黒の衣を全身に纏った妖怪は、例によって、顔を歪めるようにして笑う。
「うん。まあ、そういうこと」
——直後、有理は自らの身体の奥底から何か熱い塊のようなものが湧き出てくるのを、僅かに残った理性によって何とか行動を自制しながら、感じていた。
(落ち着いて、私! 思い出すの、最優先事項は任務内容。つまり——)
心の中で必死に落ち着きを取り戻そうとしてから、有理は桔梗の方に目をやった。
「申し訳ありませんでした、桔梗さん。私ってば頭に血がのぼっていて、すっかり護衛のことを後回しにしていました」
そこまで言うと、有理は漆黒の妖怪に一瞥してから、桔梗のもとへと駆け寄った。
すっかり腰を抜かしてしまっている桔梗に手を貸して、起き上がらせ、目立った怪我が無いことを確認してから、ようやく一息つく。
相手に聞こえないようにと配慮した大きさの声で、耳元にそっと囁いた。
「桔梗さん、さっきは虚勢を張ってみましたが、どうやら私にコレを倒すという仕事は難しそうなんです」
でも、と声をあげかけた桔梗の口に手を当て、それを制する。
「ですけれど、私はこれでも陰陽師です。『妖怪は悪』。そう教えられてきていますし、あれを見逃せる筈がありません」
一旦、言葉を切り、そのタイミングで背からリュックサックをおろし、中から——丁度、辞典が入るくらいの大きさの——小さめのポシェットを取り出した。
この状況下にいることを一瞬忘れてしまうような、とても明るい笑みを浮かべる。
「さっき連絡をした方々が到着するまでの時間ぐらい、稼いでみせますから」
有理の服と同じように、これまた真っ白な生地に赤いラインが入っているだけ、とシンプルなデザインのポシェットに手を突っ込み、人のような形をした呪符を取り出して、宙に放つ。
「式神!」
大々的な爆発音と共に白い煙が辺り一面を覆う。
煙の隙間から視える有理の隣には——何か別の生き物の影があった。