複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照1200突破!!】 ( No.136 )
- 日時: 2013/05/03 22:02
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: i7JBbubJ)
夜伽の身体を覆う黒い毛並は、発された妖気によってふわふわとそよぎ、辺りには何とも言えぬ緊張感を漲らせていた。
——と、不意に夜伽の尻尾が後方へと動き、何かを叩き落とす。
「流石、元飼い猫様だねえ。猫又みたいな妖怪になる程の実力者って訳だ」
飄々とした口調で言うのは、襲撃者である妖怪だった。どうやら話し込んでいた桔梗達の不意を突こうとしたらしい。
夜伽の尻尾は先程よりも長さを増しており、その長い尻尾は自由自在に操ることが出来るようだった。
ネコ科特有の鋭い眼つきが、「小賢しい妖怪」を射る。
「お主はとんでもない小心者らしいな。……まったく小賢しい真似をしおる」
この古風な言葉遣いは、ただの猫から妖怪へと進化を成し遂げた、猫又としての貫録を一層際立たせていた。
「『ハチ』とやらの意地を見せてみい、ほれ。それともあんたらは、たかだか相手の不意を突くことでしか勝てないような軟弱者達だということか」
「少し煩いかなァ、お年寄りはもっと落ち着いてなきゃ駄目だよねえー」
「お主こそ、そんな屁理屈しか出せない口ならば、一時くらい閉じておけ。無駄に有害なモノを出す必要は無いからな」
「ったく、何年生きてんのかな、この猫又はさア。そろそろ頑張らなくていいから、さっさと土に還ってほしいナ?」
「ほざけ、年寄りの方が強かったりするのだぞ? あまり舐めておると——」
桔梗には、そう言った直後、夜伽の影が一瞬揺らいだように見えた。
(あれ、私の見間違いかな)
ここ最近できちんと休んだ日なんて、唯一昨日の夜があるだけで、その他では気を抜いていられる時間はほぼ皆無だった。
その為、桔梗は先程の影の揺らぎを、目の疲労から来たものだと考えたのである。
手の甲で両目を強く擦り、数回瞬きをしてみたが、目が原因ではないようだった。
桔梗はもう一度、夜伽の姿を確認しようとした。——だが、其処に堂々とした猫又の姿は無い。
『!』
これには桔梗だけでなく、小心妖怪も驚いたようで、登場以来ずっと周りのモノを見下すように細く開かれていた瞳も、この時ばかりは大きく見開かれていた。
「一体何処に隠れたのかなァ!? 随分隠れ方が上手だ」
未だ虚勢を張ろうとする小心妖怪の背後からは、平常心の塊であるような、とても落ち着いた声が聞こえてきた。
「——後ろの正面誰だ? ほれ後ろじゃ、私は後ろにおるぞ」