複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照1450突破!!】 ( No.156 )
日時: 2013/07/21 21:01
名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: ZSo5ARTM)

(まったく朝からえらい目にあったもんだわ。あくまで普通を貫き通そうとしてるってのに、わかんないのかなぁ……)
 小声で文句をぶつぶつと言いながら、あやめは帰り支度を済ませ、今度こそ落ち着いて桔梗と帰れるのではないかと思い、彼女の机へと向かったのだが——

「あれ? ききょうは?」

 その瞬間、桔梗は既に校門を飛び出していたところだった。
 
                *

 名前も知らないようなクラスメイトから桔梗が「超怖い顔して飛び出してったよ」と教えられ、そこでようやく、あやめは桔梗の心が揺れていたことを察した。
 特に、ここ数日は会議に出ていたり、所用があったりと、直接かかわることは出来ていなかったし、毎日本家に来てもらっていたからといって、あのしょうぶに繊細な年頃の少女の心情を察して、更に気遣ってあげるなんて芸当が出来る筈ないのだ。

(でも、私だって忙しいんだから、気遣ってあげる余裕なんて無かったもん)

 行方不明の当主の代理業務である。星宮家はこの辺りでは月輪家に次ぐ名門だ。——現時点での規模はともかく、あやめの父が当主を務めていた頃の名残か、舞い込んでくる依頼数は決して少なくはなく、消化しきれずにやむなく学校を休む、ということも時々あったりする。
 だが、それでも仕事を面倒くさいとか、辞めたいとは感じたことは一度も無い。

 人が人を好きになるのとおなじように、あやめは、個性豊かで変わり者の妖怪達が大好きだったからだ。

 妖怪退治の依頼があったとしても、実際に自分で対話してみて、最終的な処遇は自分で判断するようにしている。事実、今まで請け負った仕事の中でも、凶悪でないモノは退治せずにこっそり見逃したり、契約をして仕事に協力してもらったりしているのだ。

「取り敢えず、一人にしちゃダメだよなぁ」

 その後もぶつぶつと文句を垂れながら、あやめは使役している妖怪や、慕ってくれている妖怪達に協力してくれるよう呼びかけて、自分でも桔梗を探し出すべく、町へと歩み出した。

——と、そこへ駆け寄ってくる人影がある。

「おい、あやめ!!」

「わっ、しょうぶ! 何でこんなところに!? 学校に来る気になったの!?」
 本日も当然のように学業をサボって依頼消化に励んでいた、しょうぶである。
「……ガッコなんて行かねえよ。それよか、伝えたいことがあったんだって」
 それなら携帯電話でも使えばよかったのに、と内心で愚痴る。すると、あやめの表情から読み取ったのか、しょうぶは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
 まるで、「俺だってこんなところで油売ってる暇なんてないんだよ」とでも言っているようだ。
「ついさっき、家に雫さんと威張り姫が来たんだ」
 威張り姫とは、しょうぶが勝手に燐音につけたあだ名である。

「なんか桔梗さんも一緒に来たんだけど、お前、警護役じゃなかったのか?」

「は?」

 思いがけない情報に、あやめは、まるで肩透かしをくらったような気分になった。