複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.24 )
日時: 2012/10/21 21:50
名前: 藍永智子 (ID: w/bUrDOd)

 もしかしたら逃れられるかもしれない、という期待感を胸にし、あやめは尋ねた。

「……何でそう思うの?」

 右手でうなじのあたりを押さえている——。無意識の内に行っているこれは、あやめが慣れない嘘をつく時に決まってするものだった。
 視界の隅にそれを捉えていながらも、桔梗は、あえて気付いていないふりをし続ける。

「『何でそう思うの』ね……。いいよ、答えてあげる」

「……」


「あやめはさっき、私に向かって『妖怪が見えるのか』と尋ねた——。逆に聞くけど、私がそういうものを見ることができるってしらない、ただの一般人だったら——そもそも、存在を信じているのかも怪しいしね——そういう質問はしないんじゃない?」

「それは——!」

「言っとくけれど、反論は受け付けないから。それに、まだあるよ——理由なら」

 相手に話させる暇を、一切与えないようにして桔梗が言う。
 揺るぎのない瞳に見つめられ、あやめが一瞬、たじろいだのが分かった。その心の揺れを利用する——。


 
「何にも隠していない一般人だっていうなら、どうやって、あの妖怪を倒したの——? 何故、私にむかって『すぐに終わるから』なんて言ったの——?」


「……」

 どこからどう見ても、あやめの敗北だった。桔梗の圧勝だった。
 少しだけ、いつもの調子に戻ったあやめが笑う。

「さっすが。口達者だね、ききょうは。私に反論する隙なんて、全然くれなかったよ……」
「当たり前でしょ」

 苦笑する桔梗。

——まだだ。まだ、最後の詰めは終わってない。

 脳内に、驚くほど冷静な自分の声が響き渡り、警告する。



「——さぁ、そろそろ話してもらうよ。あやめの秘密……」













「……分かった」















 ついに、あやめが折れた。
 
——ここまで理由を的確に述べられ、精神的にもつかれ始めているはずだから、もう心変わりすることはない——。

 こんな時だというのに、冷静に状況を分析している自分にあきれ、苦笑いする桔梗。

「——でも、絶対に誰にも言わないって約束して」

「……言ったって、信じちゃもらえないし」

 思わず口をついて出てきた言葉に驚いて、桔梗は飛び上がった。
 あやめは反射的に一歩下がった。
 その動きを桔梗の視線が追う——。

 はぁ、とため息をついた。

「やっぱり、意識しないとこうなっちゃうんだよね……。一度、体に染みついた動きってのは」

「あやめ……」

「うすうす、察しているかもしれないけど、私の家——星宮家は大分変わった家系なの。何故か……というか、呪いって聞いたことあるけど、霊感のある人、もしくはものすごく強い人が生まれやすいんだ。——で、いつの間にやら私のご先祖様のまわりは、力に引き寄せられた妖怪で溢れかえってしまった。そこで、困った星宮家の人々は、こういう事の専門家に、妖怪退治を依頼し、問題は解決した。……でも、再びこういう事が起こった時に備えて、自分達でもあちらの人々に対応できるようになろうとし——その結果が、今の私」

「……」

 少しばかり難しかった説明を理解できていない様子の桔梗を見、あやめは、一旦口をつぐみ、それから言葉を選んでから、こう言った。


「星宮家っていうのは、古くから妖怪退治を専門に行う——例えるならば、陰陽師のようなものなの」