複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.28 )
- 日時: 2012/10/21 21:52
- 名前: 藍永智子 (ID: w/bUrDOd)
テスト終わったぁぁぁぁ、と束の間の休息を楽しんでいる、藍永です。
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その後のことを、桔梗はよく覚えていない。
それは、ずっと張りつめいていた緊張が緩んだからだったのかもしれないし、仲間がいたという安心感からなのかもしれないが、桔梗は久しぶりに心の底から笑うことができたし——桔梗だけでなく、あやめも沈んだ気分を一時だけでも忘れることができた。
『仲間』とは、何と大きな意味を持つモノなのだろう。「仲間がいる」……そう思うだけで、人はこんなにも変われるのだ。
『本当の「一人ぼっち」を知っているヒト程、強いものはあるだろうか。
本当の「仲間」を知っているヒト程、輝いているものはあるだろうか。
ヒトは夢を見続けなければ生きていけない【弱いもの】であると同時に、夢を見続けるものにしか得られないモノを持っている【強いもの】でもあるのだ』
桔梗がずっと前に読んだ本に書いてあった言葉だ。
この言葉を初めて知った時、正直、桔梗は半信半疑だった。
(これじゃあまるで、この本を書いた人は、この世界の事を知り尽くしているみたい……。結局は、この人の理想なんじゃないの?)
……と。ちなみに、その時桔梗は8歳だった。
だが今、思い直してみると、その言葉は案外的を射ていたのではないか? その著者は、本当にこの世界のことを知り尽くしていたのではないか、とさえ思えてくる。
あやめは、桔梗がこんな事を考えていたなんて知る由もなく、ただ、その発作のような苦しそうな笑いが収まるのを、待っていた。
*
「……今日は、ありがとね。色々と」
あやめの家の、古すぎて歪み、動かしにくくなっている門の扉をあけながら、桔梗は呟いた。
暗くてよく見えないが、あやめが微笑んでくれたのが分かった。
「ウフッ。良いですにょ、お礼なんて。堅ッ苦しくてヤんなっちゃうし」
もう、すっかり言葉づかいは元に戻っている。
「……それより、明日からウチに来るっている約束忘れないでね。忘れたら……ゴクリ……だよっ!!」
「……はいはい、分かってます」
「はい、は一回! ……て習わなかった?」
「……はい!!!!」
「大変よろしい!」
ああ、このテンション疲れる……。やっぱり、真面目なあやめの方がいいかも……。
約束、というのは、平日は放課後、休日は1日中、何だかスゴイ結界が張ってあるらしいあやめの家に来る、というものだ。なんでも、邪悪なモノを退けるとか……。
「じゃね、ききょ」
「うん。……また明日」
『また明日』という一言をつけたのは、今、この瞬間に死んでしまうかもしれない状況のなか、何としてでも生き延びてやる、という桔梗の覚悟を表すためだった。