複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.31 )
日時: 2012/10/21 21:53
名前: 藍永智子 (ID: w/bUrDOd)

「……お、あっという間に到着しちゃったね!」
 あやめの家は、学区ぎりぎりの所にあるので、歩いて約四十分と聞いていた。
 思ったより会話が弾んでいたとはいえ、こんなにも集中しちゃってたなんて、と奥歯をぎりぎりと噛み締める桔梗。会話を楽しんでいた、ということは警戒を怠っていたとも言える。これから保護してもらいはするが、ここ数日の状況からすると、それは、あってはならない事だった。
 すると、そんな桔梗の気持ちを察したのか、あやめが言った。

「……悔やんだって仕方ないよ。とりあえず、ウチに入ろ? 結界張ってあるから、安全だよ」

                *

 促されるまま、星宮邸へと足を踏み入れると、昨日は感じなかった何かが、桔梗のアンテナに引っかかった。
(何が違うの——?)
 外より冷たい空気、少し暗い部屋、不気味な置物、家の雰囲気にぴったり合った靴——。

「それだよ!!」
「ほびゃふぇっ!! 何何何何!!??」

 あやめの変な反応は、とりあえず、置いておいて……。
 そう、靴が一足多いのだ。
 ……ちなみに、桔梗の記憶力は半端無い。もの凄く複雑な図形でも、五秒くらいみれば、超正確に復元することができる。
 だからこそ、この小さな変化に気付くことができたのだ。

「あ。本当だ! ……えっあっやべっ!! ほえっ!?」

 例えば、その家の人が気付かなかったくらい些細な事でも、だ。

「ええええと、ちょ、ちょっと待ってて!! すぐ、戻ってくるからぁ〜!!」
 
 何故か半泣き状態のあやめが、パニックになりながらドタバタと奥に走っていくのを、冷めた様子で、桔梗は見送った。

              *

「ちょちょちょちょ!! 帰ってくるときは連絡してって、いつも言ってるじゃん!! しかも何でよりによって今なのよぉ!! もう、しょうぶのバカチン!!」
「思ったよりも、仕事が早く片付いたんだ。連絡は、面倒だったからしなかった。以上」
「『以上』じゃないわぁ〜!! ま、お帰り。今、ちょっと変わったお客さん来てるけど、いじりに来ないでね。それじゃっ!!」
 言うが早いが、あやめは「しょうぶの部屋」を飛び出した。
「はぁ……。相変わらずのテンションで疲れるなァ、あやめってば」
 言いながら、ゆっくりと腰を上げる。

「さ、あやめをあんだけ夢中にさせる奴ってのはどんなのか……『挨拶』しに行くか」

 そう呟き、にやりと不気味に微笑んだ。
 次の瞬間、窓の外にズラリと並んでいた雀達が、狂ったように一斉に飛び立ったことから、どれだけ不気味だったのかを察してもらおう。