複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.33 )
日時: 2012/10/21 21:53
名前: 藍永智子 (ID: w/bUrDOd)

 約一分後、ゼエゼエ言いながら戻ってきたあやめは、息を整えてから、桔梗を家の中へと招き入れた。
「待たせちゃってゴメンね、ききょっ! さささ、上がって上がって!!」
「……お邪魔します」
 桔梗は、親友(?)とはいえ他人の家なんだから言うべきだよね、と思ったので、すごく小さな声だったけれど一応、そう呟いておいた。
 今更ながら、桔梗の純粋な心遣いが感じられて、あやめは思わず微笑んでしまう。
「えっ!? 言っちゃ駄目だった!? でも、普通するべきだと思うよ??」
 あやめは、もし桔梗が普通の人と同じように暮らせるのであれば……と思わずにはいられなかった。こんなに心優しくて、人の話も嫌な顔一つせず聞いてくれて、リーダーシップもあって、とても明るい、おしゃべりが好きな女の子なのだ。人から嫌われるはずが無い。今、桔梗が孤独なのは、妖怪が視えてしまうからであって、決して性格が悪いからではない。
 この少女を見ていると、運命というものの理不尽さを考えずにはいられないのだ。
 あやめは、半ば自分に言い聞かせるようにして言った。
「桔梗、私、星宮家の全勢力を使ってでも、絶対、普通に生活できるようにする。約束するよ」
 いきなり真面目モードになったあやめを見て、桔梗は驚いたが、すぐにそれがあやめの決意なのだと察し、うん、と頷いた。

「よろしくね、菖蒲」

「ふふっ、こちらこそ。桔梗の協力無しにはできないもん」
「……確かに」
「でしょっ?」
 友達とこのように笑いあう空間が懐かしくって、急に桔梗の視界は涙でぼやけてしまった。
「あれ? ……ごめんね? 可笑しいよね、嬉しいのに泣くなんて」
 指で涙をぬぐったが、いくらやっても、それは収まる気配を見せてくれない。それどころか、逆に、増えているようにも感じる。
「本当に嬉しいの。ゴメンね、あやめ」
「大丈夫、分かってるから、謝んなくて良いよ。さ、私の部屋行こ」

「うん、ありがとう」

                *


 あやめの部屋は、想像していたよりも、実に女子中学生らしかった。
 星宮家の仕事について事前に聞いていたから「もしかして、怪しげなモノだらけだったりして」という予想をしていたのだが、その創造は大いに裏切られることになった。

「……あやめの趣味って、超良い!!」

 扉こそ古くてアレだが、部屋の中に入った途端、そんなことどうでもよくなる。
 若草色のカーテンはリボン結びになったレースの紐でそれぞれとめられており、まどからは部屋全体に優しい光が差し込んでいた。
 部屋の中央付近に敷いてある絨毯はかわいらしい猫をモチーフにしてあるが、それでいて上品で美しい。
 隅の方にこっそり置いてある勉強机はきっちりと整頓されていて、邪魔にならない程度に飾りの置物がある。
「えへへ、これでも頑張ったんだよ〜」
「言っちゃ悪いけど、以外だね。」
「何ですと〜!!」
 そこで、トントンと扉が三回ノックされた。
 二人の動きがピタリと、凍りついたように止まる。

「失礼。——挨拶に参りました」