複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.34 )
日時: 2012/10/28 15:08
名前: 藍永智子 (ID: LUvOmhTz)

——時は同じくして『月輪家』。

                *

 少々古いこの団地に似つかない、その豪邸は『月輪家』といった。
 それだけ目立っていれば、当然ご近所の噂の的になるわけで……「その邸には亡命してきた王様が住んでいる」とか「超有名人の別荘」だとか、その他諸々の推測がなされていた。
 もちろん、実際のところは、何一つ分かっていなかった訳だが。
 その家の人間を見かけた者はいなかったし、もし居たとしても、周りをぐるりと囲んでいる塀が邪魔で、中がどうなっているかをしることは不可能だったのだ。塀の淵から少しだけ覗いている窓も、必ずカーテンがしまっていたし、中を覗こうとしたり、何か不審な輩を見つけるとすぐさま専属の警備員が飛んできたので、次第に、中の様子を知ろうとする人はいなくなっていったのである。

——その家が、妖怪退治の名門家だとは知る由もなかった。

                *

 ここはその噂の的……こと、月輪家の大広間。
 外層からは想像できないような、和風な造りなその部屋は、主に会議室として使われることが多く、今は、月輪家の重要人物達が揃って長机についていた。
「遅れて申し訳ございません。燐音、参上致しました」
 少し焦った様子で入ってきたのは、まだ高校生くらいの美しい女の子だった。
 進行役であろう、男性が軽く頷くと、彼女もそれにならってから着席した。
「急を要する事のため、挨拶は省略させていただきます」
 そして、一旦言葉を切る。

「星宮家のご当主の友人が『ハチ』に目をつけられた、とのことです」