複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照400突破、感謝です!!】 ( No.47 )
- 日時: 2012/11/01 14:38
- 名前: 藍永智子 (ID: sH2xenM.)
その状態のままで十分程経ったが、あやめが戻ってくる気配は未だに無かった——それどころか、時間が経つにつれて「どっか行ったんじゃ!?」という思いの方が強くなってくる。
しょうぶが口を開いたのは、丁度その頃だった。
「桔梗さんは、普段、どれくらいの頻度で襲われんの?」
その問いがあまりに唐突だったから、桔梗は、しょうぶが自分に対して話しかけているのだと理解するのに数秒かかった。
決して彼と親しい訳ではないので、努めて敬語と態度を崩さないようにする。
「日によって違いますが……平均して、一日に三回くらいだと思います。夜か昼か、とかいう時間はまったく関係ないみたいです。ただ単に私を見かけたら、何かに触発されて狂暴化する——まるで、何かに操られているみたいで、不気味なんですよね」
「襲ってくる奴に共通点とかはあった?」
「ぱっと見た感じは、特に無いです……」
最後に一度「ふーん」と素っ気なく呟くと、しょうぶは一人で考え込む体勢になってしまった。
全く事情が理解できていない桔梗にはどうすることもできず、結局もとの状態に戻る——と、これを何回か繰り返した時、あやめが飛び出して行った時と同様、息を切らして部屋に駆け込んできた。
服装も制服から、淡い水色の袴に変わっていた。さらに、黒い羽織りを上に着ている。
肩には——こちらは良く見慣れた——袋に入った日本刀をかけていた。袋の上から一見した感じ、桔梗のとよく似た長さのようだ。
あやめは開口一番——
「私、これからちょっとツキノワさんの所に行ってくるから、しょうぶ、留守番と桔梗の身辺警護よろしくね! それじゃ——」
「ちょ、ちょっと待って!!」
今にも再び部屋を飛び出さんばかりの勢いのあやめに、桔梗は必至に訴えた。
「私、何が何やら分からないよ!! 一体、私の周りで何が起こってるの!? ねぇ、あやめ……!!」
神にでも縋る思いで、桔梗は叫んだ。
先程から、あやめ達は「とある情報」を知っていることを前提での会話しか行っておらず、事件の中心である桔梗には、何一つ教えてくれないのだ——しかも、それが意図したように行われているのが、余計解せなかった。
すると、あやめが桔梗の心中を察したのか、
「……桔梗、大丈夫だから、まずは落ち着いてね。私は一応、この家の当主ってことになっているから、応援要請をするために他の一族の家に行かなきゃならないの。しかも、できれば今日中に。そこらへんの説明は——しょうぶ、頼むよ」
「当たり前」
淡々と進められていく、双子の会話。桔梗はどうにも腑に落ちないものを感じた。
「あやめ!! 私、分かんないよ!! どうすれば良いのよ……」
あやめは再度、桔梗をしっかりと見据えて、はっきりと言った。
「今桔梗は、ある集団から——命を狙われているんだよ」
嘘——という声が自分の口から洩れた。頭では、嘘なんかじゃないとわかっているのに。
——イノチヲネラワレテイル?
一体何で、誰が、私のことを——幾つもの言葉が頭の中をぐるぐると廻っている。
二人は、そんな桔梗の様子を知ってか、余計に素っ気ない態度をとった。
「それじゃあ、後頼むね、しょうぶ。それじゃあ、桔梗、後でね」
唯一、桔梗の気持ちを分かってくれるであろう、ただ一人の親友は、そう言い残すやいなや、足早に部屋を立ち去った。