複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照400突破、感謝です!!】 ( No.48 )
日時: 2012/11/01 16:00
名前: 藍永智子 (ID: sH2xenM.)

 古びた玄関の門をこじ開けるや、あやめは何かに急き立てられるように、全力で駆けだした。
 今、彼女は星宮の正装に身を包んでいる。それだけでも十分目立つというのに、そんなことすれば道を行き交う人々の目線を集めるのは必須だ。極力人通りの少ない道を選んでいるとはいえ、全く人のいない道というのはなかなかないものだ。
 せめて車が使えたら——とあやめは思う。
 女子中学生であるあやめが免許をとることは出来ないし、誰かに頼もうにも、最も身近な大人である両親は、物心つく前から遠方の任務についており、現在は消息すら分かっていない。

(もっと速く動いてよ、私の脚!! 私はまがりにも、星宮の当主なんだから!!)

 色々な思い——当主であるという責任感——がずっしりと胸に圧し掛かってきて、一時たりともじっとしていられないのだ。真面目であるがゆえ、その分重圧感が増す。

——ようやく月輪家に辿り着いた頃には、夕焼けでうっすらと空も明らみ始めていた。

                    *

 呼び鈴を押した後、洋風な造りのドアをきっちり三回ノックした。これが行われない限り、この家の人間が外に出てくることは無いのだ。
 十秒程たった時、急に扉がバーンと大きく開いた。——まるで、誰かが体当たりして開けたかのように。
(……もしかして——)
 あやめの予感は、見事に的中した。

「あやめちゃん!! やっほ、お久しぶりだね。元気だった? あたしはもちろん、ぴんぴんしてるけどね!」
「……月草さん」

 でてきたのは高校生くらいの女の子だった。赤みのかかった艶のある髪が印象的だ。使い古した感じの紺青の袴を着ていて、袖は邪魔にならないよう、白い紐でまとめてある。
 彼女は月草雫ツキクサシズクと言い、一言でいうのなら、月輪家に住み込みで働いている使用人、兼、戦闘員だ。
 家での付き合いがあったので昔から顔は知っていたし、年が近いこともあってか、あやめが月輪家で最も親しみを感じられる人物だった。
 もしかして、と彼女が言った。
「例の件の顔出し? さっき赤便が届いて、今大騒ぎになってるよ」
 あやめの顔つきがぐっと引き締まった。

「——うん、そのことなんだけど……案内してくれる?」
「おっけですよ」

 促さるまま、あやめは月輪家へと足を踏み入れた。