複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照450突破感謝です!!】 ( No.52 )
日時: 2012/11/23 12:14
名前: 藍永智子 (ID: p.mkGea5)

 空を、不気味に赤黒く照らしていた太陽も西の方に沈み、街灯の間を縫うようにして深い闇が訪れた時——重みのある響きの鐘が、きっっかり十二回打ち鳴らされ、月輪と星宮の会議は始まりを告げた。
 学校の教室とほとんど同じ大きさの、壁も床も真っ白な部屋の中央に長机が二つ、向き合うように並べられており、それぞれに家の代表が座っていた。
 律子は怪訝そうな表情を隠そうとせず、宗匠は小さな声でそれを窘めていた。月輪家は、当主である宗匠と、その妻の月輪律子ツキノワリツコはじめ、数名の人物が代表して出席していたのだが、応援を要請する側の星宮家からの出席者はというと、あやめただ一人だったのである。
 律子の咎めるような視線とその理由は知っていたが、反論する資格を持たないあやめは、ただただ黙っている事しかできなかった。
 そんな様子を見てとった少女——燐音は、半ば強引に会議を開始した。

「それではこれより、星宮家との防衛策検討会議並びに『ハチ』に関する情報交換会を始めさせて頂きます」

 その場にいた全員——あやめ、宗匠、律子、そして何故か残っていた雫は、それまでの険悪なムードが嘘だったかのように、真剣で冷静な表情になった。
 一旦言葉を切り、少し間を置いてから、話し始めた。
「急を要する話の為、挨拶などは一切省略させていただきます」
 至って真面目に話す少女を見たあやめから、くすくすと笑い声が忍び漏れた。
「星宮さん、何が可笑しいのですか?」
 怒ったように、質問する。感情を露わにするところが、律子によく似ていると思う。
 あやめは、痛む脇腹を押さえながら言った。
「ごめんなさい。こういう雰囲気じゃないっては分かってるんですが……どうしても止められなくって」
「何が言いたいのよ!?」
 すぐに噛みついてくる燐音のことを指さして、あやめは嘲笑するように言った。
「ほら、そういうところ。昔は随分私のこと悪く言っていたようだったし、貴方のこと、『口が悪い人』って覚えていたんです。失礼だとは分かっていますが、そう思われることをしたのは貴方の方ですし、御相子ってことにしておきましょう。……それなのに、何年かぶりに会った第一声が、いかにも真面目って感じで超猫被ってるんですもん。笑っちゃうのも仕方ないと思いません?」
 急にあやめの口調が毒づいたためか、全員、意表を突かれ、呆気にとられたような表情になった——宗匠唯一人を除いて。
「はっはっはっは。燐音、あやめさんの言う通りだ。お前の性格にはいささか問題がある、というのは認めざるを得んな」
 それを聞いたあやめが、にっこりと微笑む。
「有難うございます」
 もう一度「はっはっはっは」と豪快に笑った後、宗匠は燐音に言った。
「さあ、会議を始めようか。燐音、しっかりと進行してくれ」
 
 燐音の顔は、恥ずかしさと憤りが混じり、頬が真っ赤に染まっていた。