複雑・ファジー小説

Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照500突破感謝です!!】 ( No.56 )
日時: 2012/12/03 20:41
名前: 藍永智子 (ID: WwOXoFC5)


(——あぁ、ヤバイ。凄い緊張してきた……)

 あやめは表情を崩すことのないように注意しながら、密かにそう思っていた。
 机の下で、いつの間にかぎゅっと握りしめていた両手の内側には、自分でもびっくりする程の量の汗をかいていた。
 頭の奥の方が痛むが、痺れているかのようにその痛みはとても鈍く、その代りにとても重かった。
 落ち着け、私——と必死に言い聞かせるが、その甲斐も無く、胸の鼓動ばかりが一段と速さを増していく。
(どうしたの私……。いつもの威勢はどこへ行ったのよ!!)
 そうして懸命に自身を励ますものの、あやめの「声」はどこかへ消え去ってしまったようで、パクパクと動かした口からは、少々二酸化炭素の多くなった空気しか出てこなかった。
 そんな様子をあざ笑うかのように、燐音が言う。

「あら、あやめ。さっきまでの威勢は何処に行ったのかしら? 私達だって暇なわけじゃないの。さっさと話して頂戴」
 

——その言葉を聞いた瞬間、一気に目が覚めた。


 残念ながら、それは「私は星宮の看板を背負っている、当主なんだから」という、頼もしい理由では無かったが——「コイツにここまで言われて黙ってたら、後でしょうぶに馬鹿にされちゃう!!」という、自分の意地のためだけだったのだから、まあ大したものであろう。
 一回、二回とゆっくり深呼吸をしてから、あやめはすっと月輪家の人々を見据えた。

「申し訳ございませんでした。話を続けさせて頂きます」

 心なしか語尾の方で声が上ずってしまったような気がしたのだが、気を遣ってくれたのか、誰も触れないでくれたので、あやめもそのまま忘れる事にした。
 気遣ってくれた心優しい人々の中に燐音も入っていたのは、予想外だったのだが。

「桔梗は、私の数少ない友達で——と、これは余計でしたね。そのため、情報収集能力の無い星宮家では彼女から直接聞いた情報のみになってしまうのですが、そこのところはご了承下さい。桔梗によると、妖怪に襲われるのは、平均して一日に三回くらい。それぞれの見かけなどに対して共通点は無く、レベルも様々だということです。まあ、この道の専門ではない彼女にでも——怪我こそしますが——倒せる程度ですので、我々が相手をすれば、そこまで手こずることは無いと思うのですが……」

 あやめは、ここで苦虫を噛み潰したような顔をした。正直、この次に言うことが自分でもまだ確証が持てていなかったからだ。
 渋々、といった感じで続ける。
「私の実の弟であるしょうぶによると、彼女——桔梗は『ハチ』に狙われている可能性が高い、と。月輪さんでは、どのようにお考えでしょうか?」
 代表して、宗匠が言った。
「私達も全く同じに考えていた。本人……彩蓮さんに『ハチ』が接触したということは、まだ無いのですか」
「はい。聞いている限りでは、まだ無いようですし、彼女が嘘をついているというのは、多分、ありません」
「そうですか」
 宗匠は、あやめの言ったことを聞いていたのかどうか分からないような、有耶無耶な感じで返事をした。
 これには少しむっとした。——が、それを顔に出す訳にはいかない。
 あやめは努めて笑顔を崩さないようにして、こう締めた。

「取り敢えず、星宮の情報——私が彼女から聞いた話は以上です。聞かれれば、まだ話せるとは思いますが、一旦、このあたりで月輪さんにパスしたいと思いますが……よろしいですか、燐音さん?」

「ええ、ろくな情報無かったけど、想定内だったから大丈夫よ」
「いらない一言、有難うございます」
 燐音の皮肉にも、あやめは飄々とした態度で言い返した。
 これについて、燐音はもういちいち突っかかるのは止めたようで、何事も無かったかのように話を進めた。

「それでは、続いて月輪代表でお父様。うちで集めた『ハチ』に関する情報をお願いします」