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複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.68 )
- 日時: 2012/12/17 18:10
- 名前: 藍永智子 (ID: s3nHTWkq)
きゃあ、と小さく桔梗は悲鳴をあげた。
それまでは石像のようにピタリと静止していたしょうぶが、急に桔梗の方に顔を向けたからだ。
「……多分、あやめはしばらく帰ってこない。今日は絶対に安全だから帰っても大丈夫だけど。……まあ、このまま泊まってっても良いけどさ」
彼は、淡々と言った。
今、桔梗がどんなに悩んで、その答えを欲しがっているのかなど知らずに。
いや——知ろうともせずに。
(ほら、また私の知らないこと。……そればっかり)
この家にいる人達——正しくは、この家に存在する者は、桔梗の持たない知識を前提とした話しかしないのだ。
桔梗には彼等の話についていけない事がしばしばあるし、尋ねたくても、彼等の目を見た瞬間、不思議とそれが許されないような気がしてきて、結局、聞けずじまいに終わっていた。
(——だけど、今回こそ)
と、桔梗は腹を括って、しょうぶのことを真っ直ぐ見据えた。これまでの苛々が募り、心なしか睨みつけるようになってしまっていたのだが、彼がそれに対して怯えた様子は、微塵もない。
それどころか、彼の口元にはうっすらと笑みが浮かんできた。
鋭く研ぎ澄まされた矛を思わせるような彼の目は、とても冷たく、不気味な光を放っていた。
「どうかした? 伝言なら、伝えとくよ」
彼の口調はどこか遊んでいるようで、それが、桔梗を一層苛立たせた。
(もう、我慢できない……!!)
桔梗は、キッと、しょうぶを睨みつけるやいなや口を開いた。
しょうぶが、その反応を見て面白がっていたことなど知らずに——。
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