複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.71 )
- 日時: 2012/12/21 17:26
- 名前: 藍永智子 (ID: YaZPRLpe)
「……どうしてあなた達は、私が『その話』を理解できないとわかっていながらも、それに関する知識を何一つとして教えてくれないんですか!? どうして私は帰ってもいいんですか!? 一人でいると危険だから、という理由で私はここに連れてこられました。……危険だからと連れてきて、安全だからといって帰らせるって、自分でおかしいと思いませんか!?」
今まで押さえつけられていた感情が次から次へと、堰を切ったように溢れ出してくる。
「一体あなた達は何者なんですか!? どうして私は命を狙われているんですか!? どうして私やあなた達には妖怪が見えるんですか!?」
桔梗は、ただひたすらにしょうぶを責めていた。
それは、この事件の当事者であるというのに、何一つとして状況を理解できていない自分自身に対する苛立ちからだった。
それと、桔梗が状況を理解できずに苛立っていることを知りながらも、そのまま放っておこうとする彼等に対する怒りもある。——桔梗には、彼らが意図してこの状態を保とうとしているように見えたからだ。
だから、怒っていた——はずだったのに。
怒りに燃えていた目には、いつの間にかひどい怯えと恐怖が浮かんでいて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
(……なんで、そんな顔してるんだよ。まるで俺が泣かせたみたいじゃんか)
これにはさすがのしょうぶも罪悪感を感じたらしい。——そのとき彼が感じた気持ちは、これまで感じた事のないような、鋭く胸を突くような痛みをもたらした。
まったくといって良いほど恋愛に疎いしょうぶは、この痛みが何なのかを知らなかったのだが。
すっかり慌ててしまったしょうぶは、取り敢えず桔梗をなだめようと必死になった。
「えーと、取り敢えず落ち着いてよ。その辺の説明をするのは超めんどくさい……じゃなくて、事情がすごく複雑で、まだ俺たちにもわかっていないことがたくさんあるから、もう少し、はっきりしてから一気に教えようと思っていたんだ」
「だって……例えばですけど『ハチ』っていうのは、あなた達のなかではもう知られた存在なんでしょう? それすら、私には教えようとしなかったじゃないですか!!」
「いや、だってウチには情報収集の専門部がないから、あまり正確な情報はないんだ」
「……でも、大体は知っているんでしょ!?」
言ったそばから、穴を見つけて指摘する。
それがいつまでも続くものだから、しょうぶは諦めて、最初の桔梗の質問に答えることにした。
「案外めんどくさい性格なんだ、桔梗さん」
余計なひと言を呟くのは忘れなかったが。