複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.74 )
- 日時: 2012/12/24 21:14
- 名前: 藍永智子 (ID: u208j8/H)
「『ハチ』っていうのはさ、とある集団のことを指しているんだ」
しょうぶはため息交じりにそう言って、説明を始めた。
「そんでもって、その「とある集団」っていうのが、今桔梗さんの命を狙ってんだけど……。まあ、その辺はおいおい説明するからさ。正式名称は『永久平和主義協会』っていう長ったらしい名前で、全部いうのが面倒だから、俺たちの間では『ハチ』ってことで通ってる」
桔梗は関係ないとは分かっているのだが、それでも、気になることがあった。
「……えっと、どうしてえいきゅうなんたら協会っていうのが、『ハチ』って名前に結びつくんですか?」
「あいつらがしつこいからさ。一度狙いを定めた標的は絶対に逃がさない。執拗なまでに追ってくる。——そんな奴らを見た誰かが「まるで蜂みたい」って言ったんだと」
思いがけずそんな答えが返ってきたものだから、桔梗は何だか面白くなって、クスクスと笑ってしまった。
しょうぶは、桔梗が何故笑ったのか分からなかったのだが——いつの間にか、訝しげな表情になっていたようだった。
その表情に気付き、桔梗が慌てたように言う。
「何か想像と違うな、って思ったら自然と笑いが込み上げてきて……」
「ああ、そうだったんだ。てっきり……」
「『てっきり』?」
「てっきり、俺が嘘ついてるんじゃないかって思ってるのかな、って」
そう言うしょうぶは、照れ隠しの意味も兼ねた珍しい表情を浮かべていた。
桔梗を見れば、こちらも珍しく笑顔になっている。
——これだけ珍しいことが同時に起きるなんて、明日はきっと大雪になるだろう。
*
「『ハチ』は表向きには、社会を良くする為に立ち上げられたってことになってて、きちんとした事務所まであるんだ。「戦争絶対反対」とか「人権保護」とか「核兵器保有反対」とか……多すぎて説明するのめんどいから、以下略。そういうことを必死に訴えてるらしいよ、表向きの方に入ってる人達はさ」
そのしょうぶの言い方が何か引っかかった。
「表向き……ってことは、裏もあるんですか」
しょうぶは、話相手の察しが良くて、何だか嬉しくなった。
きっと、普段から『頭のねじが何本か抜けちゃったような人』と話すことが多いせいで、理解してもらうために何回も同じ説明を繰り返すことが当たり前になってしまったからなんだろうが——それでも、嬉しいものは嬉しかった。
「正解。——それが、俺たちの世界の中で一番危ないヤツなんだ。表向きのほうと、裏のほうは全くの別物として見てもらった方がいいかな。自分らで、こっからここっまでは安全で、そっから先は危険……とかいう線引きをしてるらしくって、そこからはみ出ちゃったヒトを問答無用で排除する——これが奴らのスタンス」
そこまで一気に言うと、しょうぶは桔梗の目をじっと覗き込んだ。
「ぶっちゃけ、桔梗さんが命を狙われてるのが何でなのかはよく分からないんだ。……こうかな、っていう見当は大体ついているんだけど、まだ確証がないから勘弁してくだい。あともう一つだけ、自信を持って言えることがあるんだけど——」
この狭い部屋に、二人の鼓動だけが、どくん、どくんと鳴り響く——。
「『ハチ』が獲物を仕留めるのは、最初に襲ってからちょうど百日目。——桔梗さんが最初に襲われたのは今日から七十八日前。つまり、このまま何もしなければ、今から二十二日後に桔梗さんは『ハチ』に襲われて——」
——そこから先は、何も言わなくてもわかった。