複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.77 )
- 日時: 2012/12/26 20:28
- 名前: 藍永智子 (ID: RpufqCQP)
桔梗は、急に自分の周りの空気だけが重くなったように感じた。
(——どうして、私の目には妖怪が映るんですか?)
そう聞こうと思ったが、止めた。——きっと、それは無意味な質問になるだけだろうから。
桔梗自身にすらその質問をする理由が分からないし、どんな答えを望んでいるのかすら分からない。
(……悩ませて、苦しめるだけなら、こんなこと聞かなくたっていい)
普段の桔梗であれば、今までの仕返しとして面白がって反応を観察していたのだろうが、今日はなぜか、それをしようと思えなかった。
——もちろん、代わりの質問なら用意してある。
桔梗がどうしても知りたかったことは、『ハチ』の正体と、もうひとつあったのだ。
『ハチ』については——正体、といって良いのかは分からないが——大体の姿は見えたような気がしたので、取り敢えずは置いておく。
そうなると、残りの質問は一つ。
「どうして、今日はもう帰ってもいいんですか。……というよりも、安全だって確信できたのはなぜなんですか?」
これに対して、しょうぶの返答は簡潔だった。
「『ハチ』に情報を流しといたから」
非常にシンプルな説明。
これだけでは、誰だって理解できないだろう。
案の定、桔梗の頭の上ではいくつものクエスチョンマークがくるくると動き回っていた。
「……と、言いますと?」
沈黙に耐えかねて、桔梗が聞いた。
「ここらへんの地域は大雑把に区切られていて、それぞれを違う一族が担当している、っていうのは、もうあやめから聞いた?」
「……い、一応」
「そっか。じゃあ、こっから先をよーく聞いといてね。今、あやめが行ってるのは月輪家っていう、俺たちのなかでは有名な一族の本家なんだ。そこの隠密班ってところでは『ハチ』の内部に潜入している人達がいっぱいいてさ——今回は、その人たちに、ちょっと働いてもらった、って訳。分かった?」
「流れるような説明、どうもありがとうございました」
急にかしこまってしまった桔梗に、しょうぶは苦笑する。
「あはは……。まー、そんなこんなで今日は帰って大丈夫だよ。……それに、あんまり遅くまでウチにいると、とんでもないやつが出ちゃったりするからさ」
「あなたが言うからには、本当に「とんでもない」んでしょうね。……今日は色々とありがとうございました。それじゃあ——」
桔梗は最後にそう言って、星宮家を後にした。