複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.78 )
- 日時: 2012/12/28 17:25
- 名前: 藍永智子 (ID: G8vJKxfm)
「まず、星宮さんで『ハチ』に関する情報をどれくらい持っているのかを、知りたいのだが……」
宗匠はそういって、あやめの方を見る。
あやめは、まさかここで話が振られるとは思っていなかったものだから、傍目から見ても分かるぐらい動揺してしまったのだが、すぐに落ち着きを取り戻して——正確には、平静を装って——ゆっくりと質問に答えた。
「では、私達が把握している情報をいくつか述べさせていただきます。『ハチ』の正式名称は『永久平和主義協会』で、表向きには、その名の通り平和を目指して活動する保全協会ということになっています。私達の世界でよく使われる方の『ハチ』は、それとはまた違った形で秩序を保とうとしている……超過激派の集団として捉えられておりますが」
「過激派」という言葉に、更に「超」を付けたことは、あやめの中での『ハチ』の印象の悪さをよく表している。
会議室にいる全員が苦笑していたが、あやめはそんなこと気にも留めず、にこりと微笑むと、話を続けた。
「そこの代表者につきましては、苗字が「夜科」であるということしか分かりません。確証はとれていませんが、一人娘がいて、歳は高校生くらい——ちょうど、雫さんと同じくらいだとか」
「あはははは。面白いですねー。何だか運命感じちゃう、みたいな?」
雫が、この場に似つかないような、軽い口調で返す。
あやめは、雫がそう言った途端に部屋の中に冷たい空気が流れてきたような気がしたので、妖怪が入ってきたのではないかと思ったのだが、他の人の様子を見ていても、特に何か異変を感じたようではなかったので、自分の思い過ごしだろうと、疑問を押し殺して、納得した。
実は、それはあやめの思い過ごしなんかではなかったし、妖怪が入ってきた、というのもあながち外れてはいなかったのだが、「彼」自身は気配を消していたつもりだったらしいので、彼のメンツの為にも、説明はもうしばらく後にさせてもらう。
「星宮家が把握している情報は、大体、こんなものです」
最後に、そう言って締めた。
当然のように燐音は噛みついてきたのだが、今度はあやめもそれを見越していたので、まったくひるむ様子はなく——それどころか、燐音が、あれやこれやと騒ぎ立てるたびに、その様子を面白そうに眺めるまでになってきた。
「これっぽちしか無いの? 星宮の情報網は、一体どうなっちゃたのかしら? 昔は「情報といったら星宮一族」って言われるぐらいだったのに、今じゃこんなザマ? あーあ、ご先祖様は毎日お嘆きでしょうね。かわいそうだこと!!」
「……あなたは、減らず口をたたくことしかできないんですか? うちの状況なら、よーくご存じのはずです。そもそも、うちが繁栄してたのって……一体、いつのことを持ち出す気なんですか? 随分昔のことですよね、それ。両親が揃って不在だっていうのも知っていますよね? 長期の任務で、しかも、極秘だっていうから場所すら教えられていないんです。連絡は寄越すな、っていわれているし、それでも電話を掛けてしまったことがあったんですが、電波が通じない場所にいるみたいで——任務に出てからだから……もう十年以上、私達は両親と連絡をとれていません」
あやめの反撃は、まったく休みをみせない。
感情は高ぶり、言葉も、意味も乱れてきた。
「血を継いでいる、という理由だけで当主になったのは、双子の姉である私。当時、幼かった私に、そんなに多くの人をまとめられたと思います!? ……ずーっと前から星宮に仕えてくれていた一族の人たちも、一人、また一人と、うちから離れていきました。成長して、昔はできなかったことも、何とかできるようになってきたときには、もう遅すぎたんです!! 何かをしようにも、残っていたのは、抜け殻みたいな屋敷と、弟のしょうぶ。そして、私だけ……!! そんな私に、何をしろっていうんですか!!」
頬にはすっかり血が上って、真っ赤に染まり、顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
ねえ、ともう一度口を開こうとしたとき——力強い声が、部屋に響いた。
「止めろよ!! ……もう、その辺にしておけって」
「誰?」という声が重なり、全員が声のした方を向く。
——そこには、見知らぬ少年が立っていた。