複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。 ( No.80 )
- 日時: 2013/01/02 21:28
- 名前: 藍永智子 (ID: gHpB4F6k)
月輪家の人々にとっては、もうお馴染みとなってしまった、雫と三郎のの口喧嘩が繰り広げられる。——彼は、先程言われたことをまだ引きずっているようだった。
「案内役を頼まれたんだとしても、まだ、納得いかないね! 俺だって暇じゃあないんだ」
「『暇じゃあない』? つまり、忙しいっていうこと?」
「そういう事だ。俺にだって、やるべきことがあるんだ」
雫は、そう断言した三郎に、怪訝そうな目を向ける。
「……な、何だよ!?」
動揺が滲み出ている彼の声を聞いてから、わざとらしくため息をつくと、これまた大げさに首を横に振った。
「……それって、あの「受かるはずもない履歴書を送りつける」やつのことを言ってるんでしょ?」
彼女の声からは、厭きれが感じ取れた。
「あれさー、いつまで続ける気なの? ……いい加減、紙とインクが勿体無く思えてきたんだけど」
「えっ!? いつまでって、それは勿論、受かるまでだろ」
「それだけは、やめて!!」
「お、お前だって、そんなこと言えるのかよ! 『仮面P』だったっけか? たいして売れてるわけでもないのに、いつまでも未練がましく……」
——形成逆転。
たいして日に焼けているわけでもない雫の顔は、一瞬で真っ赤になった。余程熱を帯びているのか、その表面からは、ゆらゆらと蒸気が立ち上っている。
苦し紛れに言い放ったその言葉は、彼が思っていたよりも、絶大な効果を発揮したようだった。
彼女の喋り方は、なぜだか、エラーを起こした機械を思い出させた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、何で言うのよそんなこと!! ぜ、全然関係ないじゃない!?」
「いーや、あるね。俺の仕事を馬鹿にしたんだ! 普通だったら、じゃあ、お前は自慢できるようなことをやっているのか、って話になるだろ!?」
「知らないわよ、そんなこと!!」
「今、言った」
「お、お黙りなさい!! それに、あれよ? あの仕事だって、馬鹿にできないんだから! 前は確かにあれだったけど、最近はあんたが知っているよりも、結構順調なんだから!」
「ふーん。例えばなんだよ!?」
「今度発売されるCDに収録されること決定したし!! しかも、二曲だし!!」
「えっっっっ!! ……まじですか」
「そうよ! まじなんですよーだ!!」
いい加減、誰か止めに入っても良い頃だと思うのだが、二人の出している雰囲気に、それを躊躇わせるような「何か」があったせいで、結局、誰一人として止めることができず、この口喧嘩は数十分にも及んだ。