複雑・ファジー小説
- Re: 桔梗ちゃんの不思議な日常。【参照800突破、感謝です!!】 ( No.92 )
- 日時: 2013/01/26 15:46
- 名前: 藍永智子 ◆uv1Jg5Qw7Q (ID: 5oEh1Frl)
結局「ちょっとだけのお片付け」は本格的な掃除にまで発展し——翌朝、カーテンの隙間から漏れる朝日に照らされた桔梗の目の下は、墨でも塗りたくったかのように真っ黒になってしまっていた。
(襲撃が無い夜だって分かってたのに……珍しく安心して眠れる時間があったのに……)
次から次へと後悔は溢れてきて頭の中でぐるぐると渦を巻いているが、流れてしまった時間は今更どうにかなる訳でもない。
(今日は絶対に学校行かなきゃならないんだよなあ、さぼれないじゃん!! ……って仕方ないか)
うっかり気を抜くと体中の力が抜けて立ち上がれなくなってしまいそうなので、一瞬たりとも気を緩めることができない。——傍目から見れば何をしているのかすら分からないような地味過ぎる格好で、桔梗はまたしても一対一の真剣勝負を繰り広げていた。
いつもの二倍以上の時間をかけゆっくりと制服を探し出してから身だしなみを整える、という作業を終わらせ、ふと、いつもとは違った角度から光が差し込んでいる事に違和感を感じ時計の方に目をやると、
「あれ……まだ、七時?」
それならば何時もとあまり変わらないし、さして焦る必要も無いのだが——では何故桔梗は違和感を感じたのであろうか。
——さっきから絶えず嫌な予感がする。
普通ではありえないことが起きるとき。
何か違和感があって、異常であると感じられるとき。
そして、禍々しい気配が感じられるとき。
(ああ、分かった。つまりこれは——)
答えは、不意に閃いた。
「妖怪さんがここにいるってことなんでしょ」
そう言った瞬間窓の外で何か大きなものが動き、部屋の中に差し込んだ光に「それ」の影が映る。
どうやら手も脚も体もある、人型の妖怪のようだった。腰のあたりまである髪が目に見えない何かに揺られて、ふわふわとそよいでいた。
影だけで着ている物までは分からなかったが、長い棒のようなようなモノを手に持っているようだった。
(久しぶりだけど、感覚は鈍ってないかな)
闘いが始まる前はいつもこうなのだが——不思議と高揚感が溢れ出して胸が高鳴り、今か今かと待ちきれなくなってくる。
命懸けの闘いであることは十分承知しているのだが、それでもその思いは捨てきれなかった。
まだ薄暗い部屋の中に、楽しげな桔梗の声が響く。
「ねえ、出てきてよ。私の血は見せてあげられないけれど、代わりにあんたを殺してあげるから」