複雑・ファジー小説
- Re: わたしの姉が名探偵らしいのだが ( No.9 )
- 日時: 2012/04/27 19:46
- 名前: 風春 ◆8avsdZrJXE (ID: nWEjYf1F)
- 参照: 5
「事件は、何ヶ月も前から始まっていました。それは、わたしの妹である猫名部優、彼女の電話での会話を聞いて思いついたものなんです」
「……お前の妹? お前、妹いたのか!? まさかそいつも探偵とか……!? ど、どこだ! どこにいる猫名部優!」
冷や汗をかきながら、辺りを見渡す横岳警部。大慌てのところ申し訳ないけれど、わたしは探偵でも何でもない。ただの一般大学生なのでござる。てか、こいつ慌てすぎじゃね?どんだけ手柄とられることトラウマになってるんだ。見かねた姉が横槍をいれる。
「いえいえ警部。妹は探偵ではありません。ですが……彼女の姉は、名探偵なのです」
そう言うと、にっ、と笑ってキメ顔をするマイシスター。さらりと自分自慢をした気もするが、もうこの際放っておこう。
「で、猫名部さん。あなたと妹さんが、この事件にどう関与していると言うのですか?」
苦笑いしながら中津具刑事が間に割って入ってきた。さっきからあなた、苦笑いしかしてない気がするんだが。あ、こいつ絶対不幸になるな。姉はにこにこ笑いながら口を開く。
「まぁ、待ってくださいよ中津具刑事。これから、じっくりと、わたしの推理をお聞かせしますから。えっと、どこまで言いましたっけ」
「姉さん、『猫名部優の電話での会話を聞いて思いついたもの』までだよ」
「ありがと優。そうそう、そこまでだった。」
まったくこの女は……頭はいい癖に記憶力が無いんだから困る。
「妹とわたしは数ヶ月前、電話にてこんな約束をしていました。『今度時間が空いたときに、二人きりで食事をしようね』って」
忘れるはずも無い。今から三ヶ月前の午後二時くらい、わたしは講義が始まる直前に姉へ電話をし、何とか彼女のスケジュールにわたしとの予定を入れたのである。
姉は説明を続ける。
「その会話を盗み聞きしていた人物——それこそが、今回の事件の犯人なのです」
「……どういうことだ? お前たち姉妹の会話と今回の事件に、何も接点は無いじゃないか」
眉間にしわを寄せる警部。自分ではわからないが、恐らくわたしの眉間にも寄っているだろう。
「それがあるんですよ、警部。まぁ、とりあえず話を最後まで聞いてください。で、その彼女——猫名部優は、一体どこでわたしに電話をかけていたと思いますか?」
姉が問いかけた。一同、あごに手をあてて必死に考える。そのうちに、中津具刑事が手を挙げた。
「あ、は、はい! 廊下とかじゃないでしょうか? 講義と講義の合間に、友人と廊下で談笑をしているときに、ふとお姉さんの話が出て、その弾みで電話をかけた、とか……ち、違いますよね! す、すいません!」
なんでそんなに謝ってるんだ中津具刑事。何も悪いことはしてないのに。
警部も、続けて口を開く。
「……トイレ、とかじゃないだろうか? 大学生なんだし、メイク直しにトイレへ行ったりもするだろう」
姉はふんふんと二人の意見を聞いていたが、そのうちに、顔の手前で両手を交差させ、×マークを作った。どちらも違うのか。
「残念、お二人とも不正解です。というか、あのですね……わたしの妹は、その、わたしがいうのも何なんですが……友達がいないんですよ」
悪かったな、ぼっちで。あぁそうだ、わたしには友達がいない……いや、いるといえばいるんだが、片手で数えきれる程しかいないし、携帯電話のアドレス帳に登録されている番号の数は——あぁもういい、悲しくなってきた。
「それに、妹は家でも外でもスッピンなので、化粧直しには行きません。排尿も、昼食を食べてからすぐに済ませる子ですので、講義前にお手洗いにいくとは、どうにも考えにくいんです。他に彼女が講義前に行きそうな場所も、特には考え付きません。以上の理由から、彼女がわたしと電話していた場所は、講義室であると見て間違いないでしょう。当たってる? 優」
こっちを見て含み笑いをする姉。なんだこいつ、ものすごく苛々する。
「……ハァ、当たってるよ」
「やりぃ!」
パチン、指を鳴らす姉。もう無邪気としか言いようが無い。大学生にもなってこの少女らしさはどこから沸いてくるんだ。
「えー……コホン。まぁ、そういうことです。と、いうことは——どういうことかわかります? 中津具刑事」
「え、えぇ? ぼ、僕に振るんですかっ!? ……えー、ね、猫名部優さんの近くに座り、彼女の電話での会話を聴いていた人物が犯人、ということでしょうか……? あ、あれ? 当たってます? すいません!」
中津具刑事、もうこれ謙虚のレベルではないんじゃないか……彼はもう少し、自分に自信をもってもいいと思うんだが。
「正解、正解、大正解! 新米なのにすごいですね刑事! 昇進期待してますからね!」
姉さん、あなたのその罪深き笑顔に、一体これまで何人の男女がやられてしまったと思っているんだ。これ以上被害者を増やすおつもりなら、わたしにも考えがあるぞ。あ、いや、嘘です。無いです。