複雑・ファジー小説
- Re: MARIONNETTE 〜蒼の翼〜 (コメをください ( No.19 )
- 日時: 2012/05/04 14:22
- 名前: ナル姫 (ID: vtamjoJM)
*悪魔の囁き
翌日、早朝。昨日疲れていたのに、早く目が覚めてしまった。でもそれは、片倉様も成実様も、同じだったようで…。
「あ…蒼丸、起きたのか…」
「はい…御早う御座います」
「あぁ、御早う」
何時も明るい成実様の顔が、今日は無理矢理な笑顔だった。
挨拶をしたら、話すことが無くなった。何となく、空気が重い。それに耐えきれなくなったんだろう。梵天、起こしてくるな、と言って、成実様は殿の部屋がある方向に行ってしまった。起こしに行く訳ではないに決まっている。まだこんな早いうちに、傷心の主を誰が起こすだろうか?
「はあ…」
___
「…遅くね?」
「…遅いですね」
成実様と片倉様が話している。何が遅いって、殿の起床だ。それとも、もう起きているのだろうか?
「いい加減起こしてくる…」
「無理に起こさないで下さいよ?」
成実様に、片倉様が注意した。ハイハイと軽い返事を成実様は返す。
その、暫く後。
「おい!梵天!しっかりしろよ!梵天!!」
「!?」
声を聞いて、僕と片倉様は急いで殿の部屋に駆けて行った。
部屋の中では、殿が苦しそうな呼吸をして、倒れていた。心臓が凍った様に固まった。それ程、驚いた。そんな中、冷静に対処したのは片倉様だった。
片倉様は殿を抱き上げ、額に手を当てて、言った。
「…御疲れなのでしょうな。熱が有るようですが寝れば治るでしょう」
安心したのは言うまでも無い。でもそれも束の間、と言うべきか。殿を布団に寝かせたまでは良かった。なのにそのあと、図ったかの様に僕以外の家臣が皆誰かに呼ばれて部屋から出て行ってしまったのだ。
寝ているとは言え、殿と二人きりだ。緊張する。
だが、それと同時に責任感も湧いてきた。殿に色々してあげれるのは僕だけだから。
それなのに
余りにも隙だらけな格好を見て
悪魔が囁いたのも事実。
武士と言うものは、何時でも脇差しくらい持っているものだ。
今なら殺せる。
煩く高鳴る心臓。汗ばむ手は確実に、僕の懐刀へと伸びていた。
刀の柄を掴んだところで僕の良心が叫んだ。
何で、片倉様や、成実様が、何も言わずに席を外したか、解らないのか?
お前を信じているからだろ。
あぁ、そうだ。殺されるのが心配なら、意地でもここにいれば良い。なのに二人は席を外した。
僕は信頼されている—…。
刀の柄を、そっと離した。