複雑・ファジー小説
- Re: MARIONNETTE 〜蒼の翼〜 (イラスト&コメ下さい) ( No.30 )
- 日時: 2012/05/04 15:46
- 名前: ナル姫 (ID: vtamjoJM)
*天国で
初七日が済み、伊達軍は畠山の居城、二本松城を攻め始めた。二本松上の城主は僕と同じ十二歳の国王丸。畠山義継の嫡男だ。十二歳の少年城主だが、二本松城は難攻不落の名城、中々落ちなかった。その上城を攻めている最中雪が降り始め、伊達軍は一時引き上げた。
軍が城を攻めている時、僕はご隠居様の側近、遠藤基信様に館山に招かれた。ご隠居様が老後の生活をしていた場所へ。
「遠藤様、御用でしょうか?」
「あぁ、蒼丸殿。よく来てくださった」
僕は自分の目を疑った。遠藤様は、白装束を着ていた。
それは、切腹するという証だ。
「え…んどう、様…?」
「私の仕事は終わり申した」
「…」
「この遠藤基信、輝宗様をお守りすること叶わず、悲しみで一杯にございます…」
だからって、死のうというのか。
「私など、生きる輝きを沢山の人に見ていただきたいなど…贅沢は言いませぬ。しかし、蒼丸殿」
遠藤様は僕の手を取った。真っ直ぐ僕を見据える。優しい目。死ぬ覚悟はできている…そう言っているようだ。
「貴方に、この基信の最後を見ていただきたい…」
僕は驚いた。何故、僕に?他の人でも良いだろうに。
「…何故、僕なんです?」
「私と哉人殿は、戦場にて何時も助け合いました。命を救って頂いたこともあります。今、哉人殿はこの世にいませぬ。ですから貴方に見てもらいたい。哉人殿の血を受け継いだあなたに…」
人が死ぬのを、目の前で見ろというのか。何もせずに?僕はここで、どうすればいい?
「介錯(切腹する人の首を落とすこと)は…どうしますか?」
「要りませぬ」
遠藤様は笑って言った。
「哉人殿の代わりに、この基信の最後を…」
「…はい」
僕が応えると、遠藤様は満足そうな顔で脇差を自らの腹に突き刺した。苦しそうな表情。でも、介錯してはいけない。それが、頼まれたことだ。それに
ここに父上がいたら、きっとそうしただろうから。
暫くすると、遠藤様は息絶えた。
畳の上が真っ赤になっている。
「これで…ご隠居様も、寂しくないかな…」
僕の目から涙が流れた。
きっとお二人は天国で、
殿の活躍を微笑みながら見ているだろう。
伊達を見守って下さるだろう。