複雑・ファジー小説
- Re: MARIONNETTE 〜蒼の翼〜 (イラスト&コメ下さい) ( No.31 )
- 日時: 2012/05/05 15:40
- 名前: ナル姫 (ID: TxQNEWMH)
- 参照: http://
*この世に残したもの
僕が館山から殿に遠藤様の死を伝える為、米沢城に行く途中、成実様に会った。
「蒼丸!此処に居たのか!城に居ねぇからどうしたのかと…」
「あ…すいません。ご迷惑を御掛けして…」
僕の声が何となく元気がない。それを成実様は感じたのだろう。心配そうな顔で、どうした?と僕の顔を覗き込んだ。
僕の目から、また涙が出てきた。
「…ゆっくりで良いから、話せよ。聞いてやるから」
「…っ成実様ぁ…」
「…基信が腹を切ったか…」
成実様が残念そうに呟いた。
「お前はそれを見ていてくれって頼まれて…受けたんだな」
僕は浅く頷いた。成実様には、解釈はするなと言われたことや、遠藤様が最後に行った言葉など、全て話した。
不意に、温かいものが頭をなでる。大きな、温かいもの。成実様の手。
「辛かっただろ…まだ十二歳のお前が、切腹に付き合うなんてな……基信の遺体はどうした?」
「今…館山にいる家臣が片付けてます…僕は、殿に遠藤様の死を伝えるようにって、言われて…」
成実様は二、三回頷いた。そして、じゃぁ言いに行かなきゃなと呟く。
「良いか、蒼丸。お前から言えよ?梵天にはさ」
「…はい」
薄く笑った成実様。僕も薄く笑ってみせた。
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「…何の用じゃ」
「ちょっ…梵天、そんな睨んだら蒼丸可哀想だろうが…」
あぁ…なんだろうこれ。もう早速心が折れそうだ…。うぅ…殿が怖い…。
怖くて俯いていたけど、視線を感じて顔を上げた。見ると、成実様が僕を見て笑っている。口が、『頑張れ』と動いた気がした。
…よし!
「その…遠藤様が、切腹しました…」
殿の目が微かに動いた。一瞬だけど、驚いたように見開いた。
そして、言った。
「…やはりな」
「…え?」
「梵天?」
殿は一息ついた。左目を瞑る。
「予想くらい出来ておったわ」
そう言うと、片倉様の方を見た。多分、続きを言え…そういうことなのだろう。僕が殿に父上と兄上の事を訴えに行った時もそうだった。
僕が思った通り、片倉様は続けた。
「遠藤殿は、誰よりもご隠居様を大切にしていらっしゃいました。故に、ご隠居様のお亡くなりになった今、腹を切ったものかと…」
「で、でも…」
「それに、側近というのはそういうものなのです。私とて…演技が悪うございますが、殿がお亡くなりになられれば腹を切ります」
僕は絶句した。これが、戦国の主従…でも、何故だ?父上と兄上の側近は腹なんて切っていない。
「じゃ、じゃぁ父上と兄上の側近は何で…」
「遠藤様にとってはご隠居様が全てでした。しかし、哉人殿と哉家殿の側近は腹を切っていない。それは、お二人がこの世に大切なものを残していったからです。自分が死んだ後も、側近に守って欲しい大切なものを。側近のお二人も、それが分かっていたのでしょう」
「守って欲しいもの…?」
「はい。お二人は、まだ幼く純粋な十二歳の城主を守ってもらいたかったのでしょう」
「…!!」
「お二人が残した大切なもの…その命、大切になさいませ」