複雑・ファジー小説
- Re: MARIONNETTE 〜蒼の翼〜 ( No.4 )
- 日時: 2012/05/04 14:08
- 名前: ナル姫 (ID: vtamjoJM)
*兄の夢
「だからこのままではいけないんだ!」
「…とか言って、何が出来るって言うんですか?」
「…辛辣だな、蒼丸」
「本当のことではないですか」
また、兄上と僕の不毛な口喧嘩が始まった。
先程のの父上のお話に、兄上は大変感動したそうだ。それで、俺は操り人形にはならんぞ、と刀を振りながら叫んでいる。
僕は正直、それは不可能だと思う。
「諦めるな蒼丸!何時か叶うものだ!」
「じゃ、その叶うまでの間何しろって言うんですか?」
「お前は…。…じゃぁ下克上でどうだ!?」
「大殿を殺す気ですか?」
「そうなれば、この出羽の国、伊達領は我らのものだ!」
「下克上なんて…あの斉藤道三も、下克上で美濃を奪いましたが、最終的には息子と対立し敗れているんです。やったって、いいことありませんよ」
兄上は再び刀を振った。
僕は続ける。
「それに…あの御方は大器の御方だ…」
あの御方の緒戦…。大内殿の小浜城での戦。結果的に伊達は負けたけど、政宗様は不利を察知して早々に引き上げを命じたんだ。面子なんてさっさと捨てて。そんなの、余程老練されていないと出来ない。とても十八歳の若当主の決断とは思えない。
「…確かに、な」
「その後、蘆名に捨てられた僕たちを拾ってくれたのも大殿(政宗のこと)です」
「あぁ…蘆名に捨てられて、途方に暮れていた俺たちをな」
「もともと蘆名臣下だったんだ。罠だって可能性もあって、家臣にだってあんなに反対する人がいたんです。…それなのに、自分の意見を突き通したんですから」
「…敵わんな。俺とあの御方は同い年なのに。…お前は今、十二か?」
「はい」
「なら、まだ操り人形では終わらんな」
またその話ですか、というと、兄上は笑った。
「いずれは大殿の側近、片倉様のように大殿に意見できるようになるさ」
「だと良いんですけどね」
僕は空を見上げる。雲雀が一匹、鳴いていた。
「…なぁ蒼丸」
「はい?」
「お前の幼名は俺が付けたんだ。その、『蒼丸』っていうのはな」
「え?」
「この…何処までも蒼い、蒼い空のようになって欲しくてな」
「なんですか、いきなり」
「…何か、俺長生きできん気がしてな」
「そんなこと言って」
「…だから、父上と俺の夢はお前が叶えてくれないか?」
「操り人形にならない?」
「そうだ」
「…仕方ないですね」
これが、兄弟で最後の会話。