複雑・ファジー小説
- Re: PKK 【Paranormal ability world】 ( No.2 )
- 日時: 2012/04/08 22:51
- 名前: ゆn ◆Q0umhKZMOQ (ID: vQ/ewclL)
第一幕 一章
「おかえりぃ旦那ァ」
中級ギルド<<半月>>へと吸い込まれていった先で聞いたのは、何時もと変わらないオカマのギルドオーナーへの挨拶は省略して、奥にある個室へと進む。歩いている途中にも「お疲れー」「よっ、久しぶり〜」と声を掛けられたが一切として返事をすることはしなかった。
だが、それで気分を悪くする輩も喧嘩腰になる輩もいないのは、彼を尊敬しているからなのかもしれない。
「おかえり。GM(ジーエム)」
薄い藤色をした短いボブの髪が印象的で、男にも女にも見える中性的な人間。GMと呼ばれたPKKプレーヤーは、その嬉しそうな声色に抑揚一つもつけずに返事をする。
彼は、ゲームマスターではない。ハンドルネームをつけなかった、所謂、名無しの権兵衛だ。そのため、ユーザー達は『名も無き覇者』や『鬼人』など好きなように呼んでいた。
「GM、っていうのは僕がちょっと嫌かなぁ……。あ! そう言えば君って目ェ赤いよね!?
それじゃぁ、君のハンドルネームさ、レンゴクで良いんじゃない?」
「……貴様の意見には、反対する理由が見つからないな。楠(くすのき)」
目を輝かせ、ニコニコしながら言う楠にレンゴクは、どうでもいいという風に、まるで他人事のように軽くあしらう。レンゴクの返答は、一見すると批判調にも聞こえるが、それは語意の差異であった。
その批判調の口調でなければ、<<半月>>のメンバーは驚き動揺することだろう。
金色の椅子に腰を下ろしていた楠が、一瞬にして真剣な表情をレンゴクに向ける。レンゴクを睨みつけるような視線に、レンゴクがひるむ様子を見せることは無い。ただ、感情が無いまま光る赤色の瞳がお菓子のおまけのように、顔に付いているだけだった。
「レンゴク。僕がレンゴクにあげた、ガーディアンの欠片、何処にやったの?」
ガーディアンの欠片は、中級エリアの中の難易度が高いところにある、『漆黒の騎士』と呼ばれるエリア内でしか手に入らないレアアイテムだった。ガーディアンを見つけることは容易だが、そのガーディアンのチートさから、レアアイテムとして管理側から決められている。それに出現させるには幾つかの条件が必要なのだ。
「……其れか。PKから助けた女プレーヤーにやった。手持ちのギルもアイテムも装備品も、全てといっていいほど取られていたからな」
ため息混じりに言うレンゴクの頬を殴りたい衝動に、楠は駆られた。だが、実行に移したところで返り討ちにあうことは明白だった。レンゴクのレベルは、最高999のところ938レベル。629レベルの楠には、敵わないレベルだった。
「別に? また取りに行くだけさ。好きなだけあげれば良いじゃないかっ! 折角レンゴクの為に採りに行ったのに!」
現実空間のように泣き出す楠に、一瞬ではあったがレンゴクはたじろいだ。自分のせいで、人を泣かせたことが今まで一度も無かったのだ。声を掛けようと振り向こうとしたとき「レンゴクの馬鹿馬鹿馬鹿!!」と、楠の声がしたかと思えば、扉が強く閉まる音がする。
「……お姫様は癇癪持ち、か?」
扉を見つめるレンゴクの疑問は、宙へと消えた。