複雑・ファジー小説

Re: PKK 【2日で参照100!? 有り難う御座います!】 ( No.15 )
日時: 2012/04/11 22:38
名前: ゆn ◆Q0umhKZMOQ (ID: vQ/ewclL)
参照: タイトルPKKだけにするか。コメも面倒だよね、それじゃないと。

 扉の一つも無く、何処が入り口とも分からない時計台の中へ歩を進める。黄緑に淡く光るワープポイントのおかげか、オレンジ色に染まる仮想の空が、黒ずんだ色にも見える。ワープポイントの周りには、装飾品店や質屋、武器防具屋など、狭い中にも数多くの店が並んでいた。
 それには目もくれず、レンゴクは少し急いている自分を嗜める様に態とゆっくりと歩く。感情機能をシャットアウトしているレンゴクは、何故自分がこんなにも楠の元へ行きたいのか、分かることが出来ないでいた。

「レベル<<漆黒の騎士>>」

 レンゴクが言い終わると同時に、ワープポイントの淡い光がレンゴクの体を包む。光に体が包まれれば、後は一瞬だ。瞬き一つすれば、目の前は夕焼け空に夜の暗さも合わさった薄気味の悪いエリア<<漆黒の騎士>>にいた。
 ガーディアンが存在する場所までは、エリア内に設置されている青いワープポイントを使った方が、遥かに早い。だが、エリア名でもある<<漆黒の騎士>>は神出鬼没なのだ。現れるエリアは此処のみだが、エリア内で現れる場所はGM(ゲームマスター)と管理側以外知ることが出来ない。
 どんなにユーザーの頭が良かろうと、計算でモンスター達の居場所が分かるほど【Paranormal ability world】は優しいものではないのだ。

「……タイムリミットまで、もって十分程度か」

 西に逃げる夕暮れを東から追う夜空を見ながら小さく呟く。それを、まるで肯定するかのように優しい風が、草原をレンゴクの髪を撫でていった。

 ◇ ◇ ◇

「どうしようどうしようどうしようッ!」

 エリア<<漆黒の騎士>>の噂を、楠は知らないわけではなかった。以前、ミルディに聞かされたのだ。『<<漆黒の騎士>>にはァん、夕暮れ時から丑三つ時のォ広い時間内に、名前と同じ<<漆黒の騎士>>がふらふらと歩いているのよォん』と。
 楠が忠実にミルディの口調を記憶の底から呼び起こしたのは、この状況を少しでも打開したかったのだろう。楠のレベルは629。たったの、629レベルなのである。エリア<<漆黒の騎士>>の設定レベルは、635と楠よりも高い。
 “少し”高いからといって油断をすれば、大きな怪我をすることを楠は知っていた。まだ初級ギルド<<菫鑑>>に出入りしていた頃、目の前でその事を知らしめられたのだ。たったレベル18の、その頃の自分達と3レベルしか変わらないモンスターに、パーティを壊滅状態にまで追い遣られたのだ。
 そのエリアの設定レベルは、17。17レベルあれば、余裕でクリアできるエリアだったのだ。それなのに、パーティが壊滅に追い込まれたのは、パーティメンバーの対戦経験値が低かったのが問題だったのだろう。

 楠は、昔のことを少し思い出しながら長い瞬きをし、目の前の現実を受け止めるようにゆっくりと時間を掛けて、目を開ける。恐怖から開いた口からは、

「漆黒の……騎士……」

 と、目の前にいる裏ボス、とでも言うべきの巨大な黒いモンスターがいる。騎士の名の通り、脚が四本ともない体長8メートルほどの巨大な馬に、此方も脚がなく顔も無い黒い巨大な影が楠を静かに見下ろしていた。
 恐怖の旋律が、楠を強張らせ動けなくする。ただただ怖いのにも関わらず目を放すことが出来ない自分を、初めて楠は嫌いになった。

「れ、レンゴク……。レンゴクッ! 助けてレンゴク————ッ!!」

 いるかも分からない、大切な人の名を叫ぶ。
 だがその声も、漆黒の騎士に全て吸い込まれてしまんじゃないかと思うほどに、漆黒の騎士の“漆黒”は、深く暗いものだった。

 最後に楠が見た光景は、容赦なく自分に巨大なランスを振り上げる騎士の姿だった。