複雑・ファジー小説
- Re: PKK 【オリキャラ募集中】 一話/四/更新 ( No.17 )
- 日時: 2012/04/14 21:37
- 名前: ゆn ◆Q0umhKZMOQ (ID: vQ/ewclL)
楠が呆気に取られている間に、戦闘は終わる。レンゴクがモンスターに背中を向け、双剣についている血を拭うように宙を切る動作が終了する。バトルゾーンが展開され、脱出不可能になっていた周囲も、移動が可能になる。
「レ、レンゴク……あの、」
「帰るぞ。アレは何度出るか分からない」
楠の言葉を自分の言葉で中断させ、もときた位置にあるワープポイントへ楠の手首を引いて向かう。楠よりも一回り程度大きなレンゴクの手に握られた手首は、細い楠の手首をしっかりと包み込んでいた。
「貴様は人の迷惑について考えることはしないのか。ミルディがどれほど心配してると思ってる。ギルドの連中も、貴様がギルドから出て行ったのを見て驚いていたと言っていた。
今まで隠居の生活を続けていた貴様が、急にギルドから、行き先も告げずに出て行くのだ。……連中たちにどれほど心配を掛けたと思っている」
「あ……ごめん……」
口早なレンゴクの言葉に、俯きがちに楠は詫びる。
心配を掛けたことは、楠自身わかっていた。
——だけど、どうしようもなかったんだ。レンゴクのせいなのに、僕にばっかり怒るなんて……。
心の中では、もう涙を流していた。騎士に狙われたとき、放つ殺気に気圧された。それが、自分のレベルの低さをまざまざと見せ付けられた。そう考えると、涙を流さずに入られなかった。
騎士の使う大きな大きなランスが自分の体を突き抜ける、言い様もない感覚。
引き抜かれたランスを追うように、体の穴から出てくる滾るように真っ赤な血。
後から脳に流れ込んでくる“痛い”“苦しい”に、叫び声をあげる感情。
誰もいないエリアで一人寂しく死んでしまうという、どうしようもない虚無感。
レンゴクは感じないんだろうな。分かんないんだろうなと考えると、余計に涙が溢れてくる。自分よりも遥か彼方のレベル。いつ追い付くことが出来るのかなんて分からない。それほどまでに、二人のレベルの差は楠にとっての海より深い溝だった。
「δ(デルタ)古都レイブン」
いつ着いたのか、立ち止まったレンゴクが半月の存在する都市をワープポイントに向かい告げる。たちまち青白い光に包まれる。無意識に瞬きをする。しなくても良い行為でも、気づかないうちに行ってしまうのだ。
「行くぞ」
もう一度、今度はレンゴクに手を引かれる。正面には長い階段と、深い闇が佇んでいた。
「レンゴク、その……ありがと」
凛々しく見える背中——首から下——を見つめながらぼそりと楠は言う。すかさず「聞こえる声で言え。貴様は女か」と毒づかれたため、今度は大きな声で言う。
「ありがとって言ってんの!」
「……貴様、偉そうだな。まぁ今の言葉は受け取っておいてやる。しっかりとミルディに謝れよ」
それと連中たちにも。忘れていたのか、付け加える。それが少し可笑しく、ふき出した楠の頭上に冷たい視線が落とされる。恐る恐る顔を上げる楠の視線と、銀の髪に纏われた紅の瞳が合わさる。
瞳から感情を見出すことは出来なかったが、レンゴクがゆっくりと口を開いているのが楠には分かった。声が出てくるのを、内心わくわくしている自分に少し恥ずかしくなった自分に、楠は少し首を振る。
「……おかえり。半月へ」
暖かな光に照らされた銀髪が風で少し揺れる。照れくさそうに見えるレンゴクに「ただいま!」と強気な口調でいい、ギルド<<半月>>の扉を開き楠は中に入る。その後に続いて、防具の音を響かせながらレンゴクも中へと吸い込まれる。
からん、と来客用のベルが静かな町に呑まれていった。