複雑・ファジー小説

Re: PKK  【一話完結⇒二話へ】 ( No.19 )
日時: 2012/04/16 21:08
名前: ゆn ◆Q0umhKZMOQ (ID: vQ/ewclL)

二話 (楠視点)

 目を開けるとそこは、玉座さえなくなったただの四角い箱の中でした。
 自分で望んだことにせよ、やりすぎたかなぁと少し反省する。ログアウトの場所は自由ではあるのだが、ログインの場所は自分が設定した場所になる。僕が設定したのは、いつも使っている真っ白な部屋。
 普通のプレーヤー(P)にせよ、プレーヤーキラー(PK)とかプレーヤーキラーキラー(PKK)が小一時間いただけでも、頭が可笑しくなることは間違いなかった。音もなければ、娯楽と成るものも一つも無い。ただそれが、僕にとっての幸せだって事はギルドメンバーの中でさえ、気違いだの言ってくる人もいる。

「ミルディー。お腹すいたー」

 長年此処に閉じこもることが多かったせいで、最初は分からなかった扉の位置も、今では簡単に開くことが出来る。慣れって怖い。扉を開ければ直ぐに芳ばしいコーヒーが香る。
 コーヒーの種類は分からなくても、コレを飲んでいるのがレンゴクであると断定できるのも、培われた一種の能力のようなものだ。レンゴクに言えば変な目で見られるっていうの分かってるから、言わないけど。

「ミルディー? レンゴクも、きてるの?」

 いつもなら元気に、直ぐ返事をしてくる表オーナーの声がしない。レンゴクの声も然り。またレンゴクは狂歌水月とか行って、ゴーデンバーグだか言う女の人と遊んだり、或人と一緒にエリアに出てるのかなぁとか思うと、少し心が痛む。
 自分だけを大切にはしてくれないんだなぁとか、当たり前のことを考えれば当たり前に胸が痛んだ。自分自身に「ブラコンみたい」と呟いたのは、この気持を自虐的にして消してしまいたかったからなのかもしれない。
 長い長い木製の通路は汚れ一つなく、歩いていて大分いい気持になる。

「レンゴクー?」
「よーぉ。裏のギルド半月オーナーさんよ」

 不満を漏らす気満々だった口を即座に閉じ、不貞腐れていた表情を教学に塗り替える。——レンゴクが組み敷かれていたんだ。
 レンゴクの動きを封じるように、一番偉そうにしてる、今話しかけてきた男がレンゴクの背中に座ってる。周りには、何処からどう見てもPKにしか見ることの出来ない、屈強な男達。半裸の獣人たちもいたが、特に気にはしなかった。
 乙女みたいな顔をしていても、中身は思春期真っ只中の男だし! 男、しかも獣に欲情しないし! 
 首を横に振り、同時に脳内を整理するようなまもなく、えらっそーな男が話し始める。

「このPKKさんよ、俺らのギルドに寄越してくれねぇかなぁ? どうも鬼人って呼ばれるコイツがうろついてると俺らPKは、困るんだよ」
「あれっ? レンゴクじゃん! やっほー」

 レンゴク含むその場にいる全員の思考が止まる。
 デカイ。やたらデカかったんだ。——おてんば娘って感じの女の子の声が

「……ああ、ゴーデンバーグか。久しぶりだな、元気だったか」

 うつ伏せになり左頬を床につけた状態で、普通に言う。たいていの装備をしたプレーヤーであれば、圧迫感で会話なんか出来る状態ではなかった。
 まあ、普通のプレーヤーじゃないしなぁレンゴクって。呆れながらいつもミルディがいるカウンターへ歩く。途中で「あ、もやしじゃん」とか言われても、気にしないのを心がける。

「てゆーかさ、なんでレンゴク寝っ転がってんの?」

 こちらも賊を気にせずレンゴクに歩み寄る。流石に刺激するのはまずいとレンゴクも踏んだんだろうか、見えない口を開き声を上げようとした瞬間、ドンッ! と何かが床に打ちつけられる音がする。
 その何かが、レンゴクの頭部であったことは、もやしって言ってきた、フロライン——ゴーデンバーグ=フロライン——の表情で把握することが出来た。