複雑・ファジー小説
- 目指すモノ Ⅰ章 ( No.1 )
- 日時: 2012/04/08 17:35
- 名前: 言乃葉 ◆AFfp2ZibnM (ID: TQfzOaw7)
- 参照: http://maruta.be/seven19241fuwari02
* 始まり *
アレは確か、去年の六月の事だった。
うちの学校は他校と比べ珍しく、六月が一学期の行事の山場となる。
頭ではバレーボール大会。そして末には文化祭。
そこそこ進学校なこの学校になんとか受験合格、入学したばかりだった私には、地獄をみるようなものである。
運動なんてそこそこで、大して頭が良いわけでもなく。人としてもそこそこで、まぁあいえば普通の女子高生だろう。
部活はかろうじて運動部。中学から続けてきたソフトテニス部だ。かといって上手いわけではなく中の中といった具合。
普通の女子高生だったからそれなりの悩みもあるし、けれども毎日を過ごしていた。
“学校生活を楽しく過ごす”というのは前提で、クラスでは五月蠅いとばかりに騒いでいたりもした。おかげできっと、私には“騒がしくて明るい子”というレッテルが貼られたことだろう。
何だかんだといって実のところ私は、そんな人間ではないのだ。
自分に言い聞かせて“学校での私”がいる。
楽しいのは事実であるから、苦ではない。
けれども、何か思うものがあるのも事実だった。
球技は得意な方ではなく、バレーボール大会は二勝三敗に終わった。
出会いは、文化祭に向けての準備で休日登校していたときのことだった____
- 目指すモノ Ⅰ章 ( No.2 )
- 日時: 2012/04/28 11:24
- 名前: 言乃葉 ◆AFfp2ZibnM (ID: ZVrdWBTO)
- 参照: http://maruta.be/seven19241fuwari02
入学して間もないにも関わらず、文化祭。
そう、文化祭なのである。
他校ではどうなのか、それは知らないのではあるけれど、うちの学校では全クラスが舞台発表をすることになっている。
舞台発表とはつまり、演劇である。
中高一貫校であるうちの学校では中学生は合唱なども選択肢もあるらしいが、如何せん私は高校生なのだ。
誰がシナリオを書くのか、まずそこから行き詰まった。
やっとみんな学校に慣れてきたかというときに、いきなり席の隣人に向かって「シナリオを書いて下さい」だなんて言えるはずがない。
いくら中学校が同じだったという人が数人いたとしても、無理な話である。
とりあえず学級委員がどんな内容の演劇にするかの意見を集め有志でシナリオを書くという塩梅となった。
なったのだが。
やっぱり高校生というのは忙しいもので、自ら進んでやっかいなものに手を出そうとする人はなかなかいない。
このままではシナリオの提出日に間に合わなくなるし、仕方なく私もその中へと混じることにした。
幸い、筋は佐々木君が書いていてくれていたので、私は不得手ながらも、ト書きに直す作業が振り当てられただけだった。
とはいえ、随分な量である。
台詞だけならそれほどまでではないものの、十五分のシナリオはワープロ打ちで軽く五枚を超える。
『ここはどこだ?』
『あなたはだれ?』
『なら一緒に探しに行こう』
『物知りの爺さんがいるんだ。訊きに行こう』
よくあるRPG系の読み切り少年漫画のような展開と結末。
笑いよりも感動を誘うストーリーだ。
よし。
私は予定よりも二日早く仕上げて、難なく提出した。
これからやらなければならないことはたくさんある。
役を決めなければならないし、小道具・大道具だってそうだ。
シナリオを書いた人達で指示をしていかなければならないから、これで終わったわけではないのだ、むしろ始まりと言うべきか。
HRでなんとかスムーズといえる範囲で各仕事や役割を決め、作業に取りかかっていく。
人員が足りないということで、おばあさんの役をすることになってしまった。
役をするので台詞を覚えなければならないが、何しろシナリオを清書したので台詞は自分の所だけでなく、大体は覚えている。
そんなこんなで高みの見物というわけにも行かないしで、小道具・大道具の制作に加わることになった。
シナリオ係なので、指示をすればいいのだが、見ているだけというわけにも行かないし、工作は好きな方なので、やらない理由がなかったのだった。
- 目指すモノ Ⅰ章 ( No.3 )
- 日時: 2012/06/02 23:37
- 名前: 言乃葉 ◆AFfp2ZibnM (ID: eD.ykjg8)
- 参照: http://maruta.be/seven19241fuwari02
演劇の題が『Heven's GATE』に決まり、兎に角あとは、道具制作と練習になった。
と言いつつ、練習は常にする訳ではないので、道具を中心に展開されていく。
衣装を取り決め、女子のグループが作成に入っていく。この辺りは家庭科部が中心になってやってくれているので、無闇に手を出さない方が得策だろう。
小道具は出来上がりの希望、例えばサイズ、色などを参考に作っていってもらう。私もいくつか作ることになった。
そして大道具。
これについては個々でするのが難しいものが当てはまる。
今回は題にあるように『門』が必要で、主に段ボールを用いて作ることになった。
とはいえ、人が通れるような大きさが必要となる。段ボールでは強度が足らず、キッチンペーパーをボンドを水で薄めたもので貼り重ね、補強することになった。
刷毛でボンド液を段ボールに塗り、キッチンペーパーを貼っていく。それを四重ほどにしていく。
単純作業だが、意外と難しい。臭いもきついし、乾きかけたところを触ってしまうと、グチャグチャになってしまう。補強する方法を教えてくれた、岡くんには申し訳ないけれど、みんなやりたがらないのが事実である。
もうやるからには最後までやろうと決めた私は、手の空いていた同じ中学校だった真田君と二人ですることにした。
無言で作業するには空気が重くなってしまうので、やはり何らかの会話が展開される。
しかし私はそんな器用な人間ではないので、すぐにキッチンペーパーを歪めてしまったり、段ボールを膝で凹ませてしまいそうになる。
その度にごめんなさいと私が謝るからだろうか、真田君がとうとう言った。
「日村さん、そんなに謝らんとってよ。俺、そんなに謝られたら、どうしたらええかわかれへんし。まず、そんなに謝ることちゃうし」
そう言われてつい、また謝ってしまう自分だった。
そういえば、なぜか真田君は、ひむら、と言う名前を、「む」が一番高くなるように読むのだ。普通、「ひ」が一番高い。簡単に言うと、真田君は「む」にアクセントを置く。もう慣れたけれど。
「そういえばね、訊いていい?」
私は微妙な空気を一掃すべく、真田君を弄ることにした。真田君は何もなかったかのように肯定する。
「また別れたって、本当?」
訊かなくても、答えは知っていたのだけれど。
振ったのが彼女の方だということも、その理由も。
真田君はとてもいい人で、一言で言うとモテる。
それなのに付き合った二度とも彼女の方から別れの言葉を告げられた。どちらの理由も私は人伝ながらも知っていた。
私はその理由を聞いて、理不尽だと思った。
けれど当の本人はその理由を知らないらしい。
「真田君ってさ、両方告白されたんでしょう? それなのにと思って。告白されたとき、真田君も相手のこと、気になってたの?」
これは、私がどうしても気になることだった。
相手のことを、そんな気もないのに、付き合えるものなのか。真田君は優しい。だから本当のところはどうなのだろうという疑問が浮かんできてしまう。
優しい人だからこそ、断れなかったのか。でもそれは、違うから。
「日村さん、ストレートに突っ込むなぁ。正直俺、まだ引きずってるんやけど」
苦笑気味に笑われた。そんな風に笑わせるために訊いたじゃなかったんだけどな。
「俺は告白されたとき、気にはなってなかった。けど、付き合い始めて、それで気になっていって、好きになった。そうゆうものじゃないかな? 俺はそう思う。けどたぶん、フられたんは、俺が悪いからやろうなあ」
- 目指すモノ Ⅰ章 ( No.4 )
- 日時: 2012/06/02 23:37
- 名前: 言乃葉 ◆AFfp2ZibnM (ID: eD.ykjg8)
- 参照: http://maruta.be/seven19241fuwari02
やっぱり、真田君は優しい人だ。
改めてそう感じた。
私には到底出来ないことを、さも自然にやってのけていく。
「すごいね」
ただ単純な、そんな言葉しか出てこなかった。
「でもさ、真田君は全然悪くないよ」
私の方が、ずっと悪いと思う。
自分の興味のためだけに、真田君の傷を抉っているわけなんだから。
「実は又聞きなんだけど、理由、聞いたの。真田君は全然悪くない」
庇おうとか慰めようとか、そういうことをやろうと思ったわけじゃない。というか私にそんなことする権利はない。
あくまで、ただ事実を口にしているだけ。
「けどやっぱり、俺が重すぎたんやって。俺は好きになったらそればっかりやから、重すぎるんやと思う」
「内容は言われへんけど、真田君は悪くないんやって。蒼ちゃんも紬ちゃんも自分の気持ちの変化の所為なんやって。正直私はそれ聞いて、腹立ったよ」
そうこうするうちに、全てのキッチンペーパーを貼り終えて、あとは乾かすだけになった。
「真田君、ありがとう」
「そんなことないけど。今回は中学校の時みたいに女装することもないし。日村さんのほうが大変やん。シナリオ、役、道具までしてさ」
確かに自分でも無理をしているとは思う。部活が終わってから、教室でシナリオ係が集まって話し合いをしたりして帰宅したら夜の八時を過ぎていたこともあった。
部活が運動部なだけに毎日あるので、さすがにポスターなどは美術部を中心に全てやってもらった。
「んー。でも誰かがやらんといけやんことやし。高校入ってみんな、中学校以上に忙しなってるやん? だったらやっぱり、やりたい気持ちがある方がいいと思うから」
だから、やりたいと思ってやってるからいいんだよ。
それに。悩み事があるときは、逆にいろんな事をしている方が気が紛れていい。
誰に相談するでもなく、ただ抱えていることしかできない悩みだから。相談できたとしても、私には出来ないだろう。
ぶっちゃけて、それでも受け止めてくれる人を、私は知らない。
こんなどうしようもないことを、誰が聞いてくれるというのか。
中学校の頃からの腐れ縁というか、まあそういう友達みたいなヤツが一人いる。
その子も同じ高校に入学して、同じクラスになって。毎日じゃれるようにして絡んでいる。
でも。相談というと、彼女には出来ない。
志保とはそういうことは出来ない。
- Re: 目指すモノ ( No.5 )
- 日時: 2012/04/21 14:29
- 名前: 霜月 (ID: fpEl6qfM)
コメントこないって寂しいよね!
分かるよ、その気持ち!!
(↑いきなり意味不明だよねー。)
挨拶が遅れたな。
どうも♪霜月といいます。
言乃葉さんの過去ログかぁ…。
見てみたいなぁ♪
それから、目次が増えるといいな!
応援してるからな!
- 目指すモノ Ⅰ章 ( No.6 )
- 日時: 2012/06/22 12:39
- 名前: 言乃葉 ◆AFfp2ZibnM (ID: tR/vZAE7)
- 参照: http://maruta.be/seven19241fuwari02
お互い、巫山戯合うことは出来る。喧嘩なんて日常茶飯事だし、愚痴り合うこともある。
それでも志保には、こういう相談は出来ないだろう。
あいつは、恋をしたことがあるから。
そして、今も恋をしている。
私が知っている中で、この恋は三回目。
小学校の頃もしていたらしいから、本人からすれば四回目。
だから彼女には、私の気持ちがわからない。
私が何に悩んでいるのか、苦しいのか、辛いのか、話したところでわからないだろうから。
「明日、土曜日だけど来られる人、挙手」
小道具・大道具の制作がなかなかスムーズに進まず、先生に許可を取って休日登校することになった。
「誰かシナリオの人、来てくれるの?」
質問してきたのは、志保。
私は午前中部活があるので、午後からやりたいのだと告げる。
「じゃあ千紘は来るんだね。仕方がないから来てあげる」
いや、仕方ないとかじゃなく、あんたはまだろくなことしてないからね。みっちり仕事を詰めてやるから。
「じゃあ明日、黒ペン各種持って来といてね。小型ポスターのペン入れよろしく」
ウチににそんな繊細な仕事をさせるのかぁ、と言っているような気がするけど、きっと空耳だろう。
「そういうことだから、とりあえず明日やります。今ここにいない人にも伝えといて下さいな」
ということで、今日はお開きということになった。
そして翌日。
朝九時から部活をし十二時半に終えると、時間が惜しいとばかりに昼ご飯を詰め込む。着替えて汗の始末もそこそこに、教室へと急ぐ。
暫くすると、ボチボチと人が集まりだした。
「千紘、はよ〜」
ともすれば、アイツもやって来るわけで。
「こんにちは、ですが? なんでこんなに遅いんでしょうか? 電車、30分前に駅に着いてるよね? 駅から学校まで、長く見積もっても、15分あれば絶対着いてるはずだよね? 同じ電車の人、10分前には全員揃ってるんだけど?」
相手が言い返せないのがわかっていて、敢えて攻撃的に言ってのける。さあ、早く認めろ。
「うぅ……、千紘、ゴメン。遊んでました」
謝るなら、集まったみんなに謝れ。
「じゃあ、小型ポスター、全部よろしく」
この間に合うか間に合わないかの瀬戸際で、遊んでいる暇なんて何処にもないのだ。
ウゲェと女子らしからぬ非難を吐いていたが、気にしていられない。
「だったら、訂正分のシナリオ、一から打ち直す? データ飛ぶなんてホントに誰かの悪戯としか思えない」
犯人が誰かを知っているだけに、名指しにはしないけれど、確実に効く言葉。そう、データを消した犯人は志保だ。けれどもそれが故意でないことがわかっているので、そこをこれ以上強く言うつもりはない。おかげで仕事が増えたわけだけど。
- 目指すモノ Ⅰ章 ( No.7 )
- 日時: 2012/07/16 11:11
- 名前: 言乃葉 ◆AFfp2ZibnM (ID: U7zErvcm)
なんとかシナリオを打ち込み終え、教室に戻った時だった。
時刻は2時半。きっとみんなは休憩に入っている頃だろう。
「ただいま。シナリオ終わったよ。って、みんなは?」
教室に入れば、なかいるのは志保と真田君だけ。私の記憶が間違っていなければ、私を含め九人いたはず。
「みんなで一旦休憩しようって。千紘が頑張ってくれてるんはわかってたけど、一段落ついたしってことで。他の人らはコンビニ行ってる」
志保の何となく要領の得ない説明で何とか状況を把握する。
確かにみんな疲れているのだろう、大道具も終盤に差し掛かっているし、志保にやらせていたペン入れも終わっている。何より、おそらく人一倍働いたであろう真田君が、机に突っ伏し爆睡している。
何も知らずにこの姿を見たなら、気分が悪いのかと思ってしまうような縮こまった状態で、鼾もかかず、まさに無音で寝ていた。この状態なら、ちょっとやそっとでは起きないだろう。
お疲れ様、あなたは陰の功労者です。
「それで志保が残り組だなんて珍しいこともあるんだね。いつもなら、いの一番に飛び出してくのに」
志保はすぐに怠け癖が出るから、敢えて一人だけで仕事をさせたというのもある。ノルマをクリアしたら、きっとくたばっているだろうから休憩させてあげようという私の意図は彼女には伝わらずに済んだようだ。
私が志保のことを気にかけてやっているなんて、アイツはそんなことは知らないだろう。いつも一緒に馬鹿をやって、お互い遠慮がない。言いたいことははっきり言い合うし、その分喧嘩が多くなる。でもいつの間にか元通りになっているから不思議だ。当の本人である私ですら、何故元通りになったのか、きっかけがわからない。
これでも心配しているのだ。中学校の時の失恋騒動直後、どれだけ電話の相手をしたことか。あんな電話を知っているから、何だかんだ言っても相手をしてやらないとという気持ちにもなる。新たな恋に出会ったようだから、気を付けてやらないと。どうも今回は“告白は絶対にしない”らしい。こういう関係の志保の発言は大抵後になって覆されるということは体験上承知している。また泣くことにならないと良いな。
「ん、たまにはいいかなって。来るまでに遊んできた訳だし、さっきも言ったけど千紘が、だし」
「ふうん、今日はいつになく友達扱いだね。いつもこんなんだったら、喧嘩なんてしないだろうに」
わざとらしく呟いてやる。志保に聞こえるか聞こえないか丁度その狭間の大きさで。
「なんか言った?」
別に。聞こえなくて良いんだよ。私がたまたま心の言葉をはいてしまっただけ。志保に聞かれると、それだけで闘いが勃発してしまう。そうなると後が大変になるから、出来る限り避けたい。
突然予告もなく教室の扉が開く。
連中が帰ってきたのならそれなりの音や話し声がするはずだ。それがなかったのだから、私が驚いても無理はないだろう。
「……誰?」
私の疑問は尤もだと思う。“お前は誰だ!?”と糾弾したいところだったけど、それすらも出てこなかった。
恐る恐るこちらに踏み込んできたのは、見知らぬ男の子だった。