複雑・ファジー小説

Re: 黒魔女と契約者【第一章完結!】 ( No.39 )
日時: 2012/11/17 10:32
名前: 灰色 ◆/6D66bp.xk (ID: FtPJcOXY)
参照: 第二章「路地裏は殺人鬼の住家」

   第二章「路地裏は殺人鬼の住家」

 生徒の制服も衣更えを迎え、じわじわと梅雨が感じられるようになった頃、一人の少女宛に一通の手紙が届いた。
 ——それは早朝の出来事。私は日課と化している『朝にポストを見る』作業をしていると、一つの薄い包み紙を見つけた。
 ……珍しいですね。
「玲華様、お手紙が届いております」
「手紙?」
「はい。送り主は……ドイツのロバート様です」
 玲華様はその名を聞くと、首を傾げ不審な顔をした。
 …………まさか……そんなこと有り得ません。
 私は最悪な状況を考えながら、玲華様の次の言葉に耳を傾けた。
「ロバート……? あたしそんな人知らないわ」
 私は白目を剥いた。
 玲華様かビクリと反応したのが伺える。
「玲華様……ロバート・フォーマル様をお忘れですか……?」
「えっ……? …………………………誰、だっけ?」
 玲華様の心からのお言葉に、私はガクリと膝をついた。あの時の私の苦労は何だったのでしょう……。
 こちらの様子を伺うように上目遣いで見つめる玲華様に、私は冷ややかな目線をお送りした。
「私は一生懸命教えたつもりなのですが……残念です」
「え……? えっ??」
 玲華様は状況を飲み込めていない。
 ……私は少々殺意を覚えた。
「玲華様がこの学院に入った直後、私は家庭教師を頼まれましたよね」
「そ、そうだけど……」
「私はその時にお教えしたはずです。ロバート・フォーマル様というお方の事を」
「本当に? あたしはそんな名前知らないわ」
「…………左様でございますか……」
 私と玲華様はしばらく見つめ合った。
 ——先に口を開いたのは玲華様。
「お、教えてよ……そいつの事」
「私はもうお教えしましたが」
 にーっこり、完璧な笑みで私は答えた。
 玲華様のお顔がみるみるうちにシワを増やしていく。若いうちからそんなにシワを増やされては、老いてから大変だというのに……若者の特権ですね。
 玲華様の約二十倍の年月を生きてきた私には、家庭教師のことなんて最近のことのように思えますが……彼女が本当にすっきり忘れてしまっていることにはとてもショックです。
「うっ…………わ、忘れたから、もう一度教えて……」
「かしこまりました」
 そして私は玲華様にもう一度、以前とそっくりそのままの説明をし始めた。


「——理事長の古いご友人ね……。それならあたし覚えているはずなのに…………クラウ、あんた本当に教えた?」
 はぁ……遂には契約を交わした私までを疑う始末。一体どうしたのでしょう。密かに募るイライラが抑えながら、私は礼儀正しく答えた。
「もちろんです、玲華様。ロバート様はこの学院の創設に携わった方でございます。そんな重要な方をリストから外すなんて、いくら私が人間を見下していようと致しません……!」
「…………今とっっても失礼な言葉が聞こえたけど、空耳として聞き逃してあげるわ」
「クスクス……玲華様、ご冗談を。空耳ならば聞き逃す必要はありませんよ」
 玲華様は一度黙り込み、私に今日初めての命令を下した。
「内容は確か仕事の依頼だったわよね……。ロバート・フォーマルが理事長の古いご友人だというなら、解決するのにいくつかのメリットがある。
命令よ、クラウ。この依頼、何としてでも解決しなさい」
「かしこまりました、玲華様。必ずや、相手方にご満足いただける結果を……」


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第二章始まったよ!
今回は人が死んじゃったりするのでご注意を;;
2012.05.06