複雑・ファジー小説

Re: 黒魔女と契約者〜私と契約しませんか?〜 ( No.6 )
日時: 2012/09/09 14:14
名前: 灰色 ◆/6D66bp.xk (ID: FtPJcOXY)
参照: 第一章「学院の日常」

   第一章「学院の日常」

 朝日が完璧に磨かれたガラスの窓から真っ直ぐと差し込んでくる。その光は私の契約者である少女のストレートな栗毛に反射し、その状景は絵から出てきたものと錯覚してしまう程美しかった。
 少女はティーカップを静かに置き、未だ紅茶を飲んでいる私を横目で見た。
「ねぇクラウ」
「はい、何でしょう」
 その少女——玲華様は寂しげに目を細め、息を吐いた。その目は憂いを宿している。
 赤いカーテンをなびかせる風のせいか否か、その瞳が不安定に揺れた気がした。
「あたし……いつになったら白いリボンを手に入れられるのかしらね」
「クスクス……あなたはまだお若いじゃありませんか。そう急ぐことはないのでは?」
 彼女はまだ十四歳。
 幼いながらその才能はどんな者も認める程著しく、その証拠に上階級の赤いリボンをつけている。白いリボンとは赤より上級のリボンであり、そしてそのリボンを手に入れると理事長の手によって願いを叶えてもらえる。その卒業生たちは皆成人を過ぎた者ばかりだ。
 だが私の契約者はこちらにしてみればとても若く……赤子と言っても過言ではない年。そんな才能を持った彼女が何を焦っているのだろう。
 ——そんなにも、『彼女』に会いたいのだろうか。
「わかってる癖に……。あたし、あなたのそういう所嫌いよ」
「ふふ……ですが、それに助けられたこともあるでしょう?」
「、……」
 玲華様は舌打ちをし、顔を背けた。
 仮にもお嬢様だというのに、そのような行為は……。口に出そうとしたが、もっと機嫌を損ねてしまうと後々困るので止めておいた。
 ——不意に時計を見れば、もうそろそろあの方々が来る時間だ。
「玲華様、もうすぐ——」
「れーいーかっ!」
「「!」」
 ノックもせずに玲華様へ飛びつくのはただお一人。
「キャシー!」
「また来ちゃったぁー」
 テヘッと舌を小さく出し、ツインテールの髪を揺らした。そんな仕草が似合うキャサリン様はとても可愛らしいのだが、毎回ともなればげんなりしてしまう。
 それは玲華様も同意らしく、乱暴に開かれたドアを呆れた目で見つめた。
 すると、ある者がいないことに気がついた。
「……ラファエルはいないの?」
「…………あ、」
「キャサリン様ぁ、待って下さい〜」
 キャサリン様を追い、ようやく辿り着いたらしい。銀髪の寝癖のついた(といっても天然パーマなのであまり目立たない)ラフィーさんは息を荒くしながら白い壁に寄り掛かった。
 ……全く、位の低くはない中天使が情けないですね。
「ラフィーさん、どうぞお掛けになって下さい」
 恒例のことながら、あまりにも辛そうなので背もたれのついている椅子を進めると、ラフィーさんは輝いた目で私を見つめた。
 そして両手で私の右手を握った。
 ……またですか…………懲りない人ですねぇ。
「クラウさん……やはりあなたに黒魔女なんて似合いません! 今ならまだ間に合います、天使になりましょう!」
「遠慮しておきます。私のような者が神の前に現れては神が気分を害されるでしょうから」
 さりげなくあしらったつもりなのだが、ラフィーさんには伝わっていないようだ。
 ……はっきり言って鬱陶しい。
 心中悪態をついて彼が退くのを待っているが、まだ引こうとする気配はない。
「なんて謙虚さ……!! やはりあなたは——」
「さて、もう登校時刻です」
「あら、本当ね。行きましょ、キャシー」
 さすがのラフィーさんも口を閉ざし、私達は学院を目指した。



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やっちゃったね第一話!
話で区切ると目次作らなきゃいけないかもしれないので、章にしました。
第一章では学院のメンバーを紹介出来ればと思っています。
2012.04.23