複雑・ファジー小説
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.19 )
- 日時: 2012/05/06 15:52
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)
******
第1話-7 計算式の彼女 白の彼女 1/3
******
ファミレスに入ると、気のせいか人が少ないように感じた。やはり連続失踪事件が未解決ということで、みなあまり外に出歩かないようにしているのだろうか。だが、これもいつも通りといえばいつも通りにみえる。俺の気のせいかもしれない。
「いらっしゃいませ、一名様でございますか?」
「はい」
入ってすぐにヒマそうにしていたウェイターが声をかけてきた。俺と鞄を見て学生と判断したウェイターは、「勉強なさるのですか?」と質問をかける。
「まあ、邪魔でなければ」
「店が満席になった場合は相席になりますがよろしいでしょうか?」
「はい」
「ではこちらへどうぞ」
ウェイターはそう言って歩きだし、俺はその後を付いていく。この店では勉強をさせてもらえるが、その代わり満席になれば有無を言わさず他人との相席を強制される。ピーク時を避けてるとはいえど、相席になるのはよくあること。中には相席になって親しくなり、恋人関係になった者もいるとかいないとか。俺は別にこの場所に運命的な出会いとか求めてるわけではなく、ただ単に勉強しにきただけだから最初から甘い期待などしてないが。
席に着いた俺はまずメニューを広げた。一応テストは五日間に分けて行われる。つまり、今回を除けばあと四回この場所に来ることになるってわけだ。毎回高い食事なんて頼んでたら財布が空っぽになる。だから適当に安そうなものを、ただしサラダバー付きのものを選ぶ。ファミレスも基本肉料理だからな。
肉単体だと便秘を患う危険性がある。便秘の中には危険なものもあるらしいし、健康管理は重要だ。実家から電話がかかってくる度に食事だけはまともに取れと口うるさく言われる。
料理を決めた俺は、テーブルの隅の半球状のボタンをカチッと押した。それにしても、ボタン一つで人が呼べるとは、いやはや便利な時代になったものだ。最近じゃ何をするにしてもプッシュだ。パソコンの電源を入れるのも、エレベーターを呼ぶのも、自販機で何か買うのも、恋愛をするにしても。
………………やらかしたな、俺。
今のは記憶の彼方へ飛ばしてくれると有り難い。……だが人間は“忘れろ”と言われると逆に覚えていて、そんでもって覚えとかにゃならんことはすっかり忘れてしまう生物だ。だから敢えて言わせてもらおう。忘れるな、むしろ覚えておけ、と。本当に覚えてもらっちゃ困るんだがな。特に俺が。
頼んでいた料理が届き、竹を斜めに切ったようなプラスチックの半透明の例の筒に丸められた伝票が押し込まれた。店の人が戻って行ったのを確認すると、さっそく料理に手をつける。香ばしい音を発しながら油が跳びはねる鉄板の上には、ハンバーグ(120g)と、申し訳程度に添えられてある炒められた野菜。鉄板の隣に置かれた皿に盛られたライス。至って普通の食事であるが、ライスの反対側に置かれた皿にはサラダバーの野菜がテンコ盛りにしてある。人は一日約350gの野菜の摂取が望ましいらしいからな。もちろん残さず食える分だけ取ってきた。
ナイフとフォークでハンバーグを突いていると、会社の送別会か歓迎会の二次会なのか、スーツ姿の客が大勢なだれ込んできた。ザッと数えて20人弱、かなりの人数だ。少し酒が入っているらしく、顔を赤らめた大人がワイワイガヤガヤと騒いでいる。どうやら今日はハズレだったようだ。集団の中にタバコを吸う人もいるようで、彼らは喫煙席へと案内された。もちろん、俺がいるのは禁煙席である。大人数が店に流れ込んできたことで、店の中は一気に満席状態に。店としてはうれしい悲鳴ってやつだろう。レジの前で順番待ちをしている客も出てきだした。こりゃ相席確定だな。
食事が終わり、伝票を手にとって確認する。感熱紙に印刷された金額は1000円を切っている。俺が注文したものに間違いない。
一度、店側のミスで伝票が俺のと家族連れの客のものと、さりげなく入れ代わってしまったことがあり、会計の時に目玉が飛び出るような金額が提示されたことがある。確か五名で7000円だったような気がする。なかなか上等なもん食ってんじゃねえか。
ラッキーとでも思ったのか、間違えられた家族は俺一人分の代金を払って出て行った後だった。店も店で五人で来てるのにそんな安い値段はおかしいと気づけよ。
これは俺が注文したものじゃないというと、若いアルバイトの女性店員は少し青ざめて、うちは管理が徹底してるからそんなはずはない、とかのたまいやがる。こういう時は先にキレた方が負け。だから言ってやった。
「伝票に五名って書いてあるんだけど?」と。
そしたら向こうは向こうで訳分からんこと言い出す。自分には何の非もないということを必死になって言いたいのは分かる。だがな、主語も述語も無茶苦茶に喋られても凡人には理解できないのだよ君。そして出来上がったのは、興奮する年上のアルバイト店員を、そっちの言い分も聞くからちょい冷静になれ、となだめる摩訶不思議な構図。しっかし女ってのは恐ろしいもので、一度火が付くと中々止まってくれない。こっちはせっかく話し合いに持ち込んで平穏にやろうと思ってんのに、相手は激情するし周囲の注目を浴びるしで大惨事。
そんなこんなで図らずも店員と熱い会話を交わしていると何事かと店長(男)が登場。すると店員は「店長〜」なんて撫で声で呼んで泣き崩れる。なんというか……もう、お前の馬鹿に付き合ってらんねえよ。どうしてこうなったかのいきさつを俺が話して伝票を見せると、店長は素直に申し訳ありませんでしたと頭を下げてくれた。そして床に泣き崩れているアルバイトに、自分の手に負えない問題は、上に報告すればこっちでなんとかやるから、となだめていた。
しばらく経って、高校で友人とのちょっとした話題の中で、「最近あのファミレスのあのかわいいアルバイトの子、見かけなくなったな」という話が出てきた。俺はその話は適当に聞き流したが、頭の中ではあの時の店員だろうと勝手に推測していた。言い方に語弊があるかもしれないが、あのアルバイト、ルックスは良かったからな。
「あの、お下げしてもよろしいでしょうか?」
伝票を見ながら回想にふけっていた俺は、背後からきた店員によって我に返った。俺がああ、どうぞと答えると、店員は丁寧な動作で食器を取り上げた。
そんなトラブルがあっても俺がこの店に来るのは、俺が小さなトラブルの一つや二つで来なくなるような、短気でエレガントな人間じゃないってのが大きいが、他に挙げるとするなら、平時は店員の対応が丁寧だということもある。あと、長居に寛容ってのも。
すっきりしたテーブルの上に問題集を広げ、シャーペンの頭をカチカチッ、とノックする。今回のテスト範囲は、確か……
「お客様、相席よろしいでしょうか?」
ついに俺のところにも二次会の余波が押し寄せてきたらしい。一人の店員がにこやかな表情で俺を見つめていた。
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.20 )
- 日時: 2012/05/06 15:53
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)
2/3
「はい、どうぞ」
俺が答えると店員は半ば駆け足で順番待ちの客へと向かった。やれやれ、相席する奴が騒がしくなけりゃいいんだが……まあ相席する奴なんてどうでもいい、所詮は他人。
俺は問題集と向き合う。相席とかそんなものよりも、重要なのは目の前に迫った、いや、既に突入しているテストでどれだけ点を稼げるかである。
ええっとだな、今回の試験範囲は問題集の76ページから92ページまでだったな。中間終わってから期末までの猶予が短いから、テストの問題は広く浅くではなく狭く深く出題されるだろう。この辺の問題は一応一通りは解いてるし、どれだけ早く正解に結び付けられるのかが鍵になってくる。あと解けなかった問題の再確認。
どうでもいいって言った先からなんなんだが、そういえばさっき相席の確認をしにきたのに、客来ねえな。そう思って顔を上げると、テーブル越しに向かい合うようにして既にそこに相席の客が……いた。
「はあ〜、やれやれ……」
俺は思わずそんなため息を漏らしちまった。向かい合って座る人物——骨格、体つきから判断するに女性。……それだけなら俺はため息なぞつかない。問題なのはそのぶっ飛んだ容姿だった。髪は真っ白の長髪だし、肌は色白だし、目に至ってはリンゴ飴のような透明感。顔の構成質感共に上級。俺の脳内ではとりあえず美少女に即認定しておく。目に関しては一般人なら兎の目のようだとか言うのかもわからんが、俺としてはリンゴ飴の方がしっくり来る。
それよりも、充血以外で目が赤い人物なんて見たことねえぞ。あれか? 今流行りのカラーコンタクトってやつか? 最近じゃあコンタクトもオシャレアイテムの一つになったとかテレビで聞くし。ブラウン系とかブルー系とかいろいろあるらしい。それとあとは、アニメとかゲームとかのコスプレでも使われる……らしい(友人談)。
俺はそういう“さぶかるちゃー”には疎いからよくわからんが、とにかく今目の前にいるこいつがコスプレをしているとは非常に考えにくい。というのも制服姿、しかもうちの学校の制服だからだ。かといってこいつがビジュアル系のような顔つきでも雰囲気でもない。どっちかというと清廉な印象を受ける。
サラっと今俺言ったけど、ていうか何故お前はうちの学校の制服を着ている!?
学校でこんなに目立つ容姿の奴がいればそりゃすぐに話題になるだろうが、そんな話はいっぺんたりとも聞いたことはない。さらに言わせてもらうと、だ。こんな目立つ奴が街中歩いてたら、学校に在籍してようがしてまいが噂になるだろう。でもまあわざわざこんな髪まで白に染め上げて、夜中に出歩くなんてこれじゃあまるで幽霊みたいじゃ…………
……ちょい待て、俺、幽霊って言ったよな?
まさかこれガチで幽霊とかそういう類の妖怪……じゃ、ないよな? こいつ音もなく近寄って来てスーッと俺の目の前まできたんだ、幽霊妖怪怪物その他諸々の危険性だって……いや、考えすぎか。でも確認したい! テーブルの下にはこいつの足がちゃんとあるのか確認したい! さりげなく文房具を落としたフリして下を覗けば確認できるよな。
……さらに待てよ俺。
今考えてることは、ともすればスカート覗きとも取られかねない行動、下手すりゃ警察に突き出される危険性だってある。さらにもう少し冷静になって考えてみれば、こんな明るい店内で幽霊が実体化して出てくるはずがない。ほら見てみろ、ちゃんと影だってあるじゃないか! 光を遮る物体があるから影は生まれる。そこにある影は物体が存在する証拠つまり!!
……この少女は人間だということだ。
はあ、一体俺は何を考えてるんだか。常識で物事を考えないとこんなにもカオスな思考に到達するのか。ああ恐ろしい、恐ろしい。クワバラ、クワバラ。
……しかもまだ俺の中にはカオスの残党が残っているらしい。クワバラクワバラって雷除け(天災と親父の両方の意味)の古典的なおまじないだ。
彼女からすれば自分を一目見て硬直&クワバラしている俺は要注意人物にしか見えないだろう。現に俺は今目の前の少女から無表情な冷たい視線を浴びている。ましてや中を覗いたら、イカレた空想で頭パンパンなんだから手の施しようがない。
ちなみに周囲の客の反応は、「気にしてないフリしてるけど実はものすごく気になる」、これだ。なにかことある度にさりげなくこちらをチラチラチラチラ見てくる。
店の時計を見ると、こんなくだらない愚考に十分も費やしていたのに気がついた。いつから俺は定期テストに対して余裕こいていられるようになったのやら。とにかくやるのは問題集。さっきから広げてやるやる言っておきながら全然手をつけてない。
とりあえず今の俺のやるべきことは、目の前にいる珍妙な少女のことは気にせずに問題をこなし、帰る時間になればとっとと退散することで、そこの変な生き物が何しようが俺には全く関係ない。
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.21 )
- 日時: 2012/05/06 15:55
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)
3/3
……のはずなんだが、どうも気になる。
俺が勉強を始めてから約一時間、目の前の珍妙は何をするわけでもなく、ただただ冷たい目線で俺を見つめている。ここは飯を食う場所であるにもかかわらず、注文どころかメニューすら開いていない。ここで誰かと待ち合わせしているのだろうか。だとしても時計はもうすぐで午後十時。こんな夜中に待ち合わせとは考えづらい。一時間もここに居座っているということを考えると、相手がよっぽど遅れているとしか考えられない。それにしては遅い遅いとイラついたり心配して電話ぐらかけたりとか、窓の外の様子を見て来るのを待ってたりとかしても良いはずなのだが、そういう気配は全く見せない。
奇怪なのは容姿だけではないようだ。というかあいつ……視線が怖い。冷たい視線を浴びながら勉強するってのはかなり精神的にくるものがある。あまりうるさく騒がれると集中できなくなるが、これもこれでかなり集中力を欠く。
「ふう……そろそろ、だな」
時刻が十時半になり、俺は勉強道具を鞄に仕舞って伝票片手に席を立った。レストランはこの時間になると空席が目立つ。厨房でカチャカチャと皿を洗う音がレストランの静けさをさらに助長している。満席の元凶もつい15分かそこら前に帰って行った。
目の前の変なのは依然として席に留まったまま。我ながらよくこんな過酷な環境で勉強できたものだと思う。こういうと大袈裟に聞こえるかもしれない。だが赤の他人から過度に監視されながら勉強するってのは結構拷問に近いものがある。ならこんなところで勉強してんじゃねえよボケ! と突っ込まれそうだが、ある程度の公衆の目の中で勉強するってのは自制心が働いて効率が上がる。飯作るのがめんどくさいってのと同じ環境下で勉強するのは飽きたってのとこっちの方が効率が上がるという意味を兼ねてここに来ているわけで、確かにこんな状況下で勉強するのは新鮮極まりないと言えるが、今日みたいな事態になるとは予想してなかった。
今日は大ハズレだったが、明日はこんなことはないだろうと思いながら席を立ち、レジに向かって数歩歩いたところで振り返る。
白髪の少女は着席したまま、空になった俺の席を見つめていた。何か考え込んでいるのだろうか。
だとしたらこんな時間だし、声をかけてやれば良かったのかもしれん。だがそうする気はどうも起きない。
手に持った伝票に目を落とす。小計840円。あと四回ここに来るから今日の分も含めて単純計算で総出費は4200円か。食事代もバカになんねえな。まあ食事を作る、片付ける時間を勉強に廻すことができると考えれば安い……んだろう。
小さな違和感を感じて顔を伝票から離すと、例の少女が赤い目でじっと俺を見ていた。気味が悪い。さっさと退散するのが吉だ。これで家に帰ったら玄関に彼女が立ってたらと変な想像をして身震いする。
もしそんなことがあれば、何時だろうとその足で神社に駆け込んで|和尚《おしょう》! ヘルプ! と叫ぶね。
……和尚は寺か。神仏習合どころが混同してるとか俺の頭は花畑だな。無宗教の俺がこんな時だけすがりつくのもちゃんちゃらおかしい。って、そんなこと考えてる場合じゃねえよ!
思い付いたように踵を返し、足早に会計へと向かった。
「ん……」
帰宅途中にある自動販売機の前で一人、俺は自転車を止める。電柱に据え付けられた照明がぼんやりとその周囲を照らす。もう少し目に優しい照明にしてくれと思いながら、周りの明るさと不釣り合いに眩しく発光している自販機の蛍光灯に目を細め、販売している飲料に目を通す。
“ご愛顧感謝記念! 期間限定で缶ジュース全品100円!”
何が記念なのかはイマイチピンと来ないが、缶飲料の列に貼られたステッカーをが言いたいのは、とりあえず缶ジュース安くしたから買ってくれということらしい。
「…………。」
財布の中を覗くと、100円玉は2枚。買えないわけではない。今日のレストランでの自習はハッキリ言ってあまりできてなかった。これもすべて、あの絶対零度の視線のせいだ。よくあんな視線を浴びて凍結しなかったものだと自分を褒めてやりたい。
勉強の成果を人のせいにするなと言われそうだが、気になるものは仕方がない。このままの予定でいけば、俺はちょいとテレビを見た後、風呂入って寝ることになる。だが、今の状態で明日のテストを迎えるのは心許ない。睡眠時間の削り過ぎは非常に危険だが、少しぐらいの無理はポンコツの俺の身体でも大丈夫だろう。というかやらないと不安で眠れねえ。
俺は100円玉を一枚、自販機の口に突っ込んだ。投入された100円玉が自販機の中のカラクリをカチャカチャと動かす音が鳴り、ワンテンポ遅れて投入金額100円の文字が赤く光る。さて、何を買おうか。といっても、買おうと思ってるのは値下がりした缶飲料。自販機に並んでいる缶飲料の大半がコーヒーである。
「……まあ適当にこれにしておくか」
オッサンの顔が目印の缶コーヒー、DOSSのボタンを押した。
ウ゛ーンガラガラドッスン、チャリン——
別に俺はこの銘柄のコーヒーじゃないとダメだとか、ブラックじゃないと嫌だとか、そんなマニアな人間ではない。これを選んだのはただ単に俺の利き手から一番押しやすい場所だったからだ。これ、自動販売機を設置してる全国の人間必見な。よく冷えて、早くも表面に結露が出来だし始めた缶コーヒーを鞄の中に入れ、俺は再び歩きだした。
帰宅早々テレビとつけると、夜のニュース番組が始まっていた。連続誘拐事件の速報らしい。テレビ画面右上には“男子大学生また失踪 同一人物による犯行か”の文字。
《警視庁の発表によりますと、
加治大学1年生のSさん(19)が三日前から連絡が取れなくなっていると、
Sさんの友人らが警察に捜索願を出していたことが分かりました。
加治市では同様の失踪事件が3件相次いでいますが、
Sさんと現在捜索願を出されている3人には面識がないということです。
警察では同一人物による犯行が強いとして今日捜査本部を設置したと発表しました。
Sさんの自宅付近の小学校では集団下校を実施するなど、近隣の住民に不安が広がっています》
ついに4人目が出たか……しかも3人とは無関係な人間。今まで俺は事件に関係がなければこんなことに遭うことはないだろうと思っていたが、その慢心は、この速報のせいでいとも簡単に崩されてしまった。