複雑・ファジー小説
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.2 )
- 日時: 2012/04/22 23:11
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)
俺の周りで怪事件がいくつも起きている。
宇宙人(幽霊?)にストーカーされながらも、
次から次へと飛び込んでくる人の尻拭い——もとい雑用。
ただでさえHardだというのに、俺だけ人生Extremeモード。
誰か……俺と代わってくれ。
推定読了時間:約4時間48分(288分)
(500文字/分、500文字以下切り上げ)
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第1話-1 計算式の彼女 祟り
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校舎のトイレから出てきた人影を見て、俺は思わずその目を疑った。
「あの噂、ガチだったのかよ……」
運のいいことに、俺の存在には気づいていないようだ。ただただ立ち尽くしている俺を見つけたら、一体どうするだろうか。想像すらできない。俺のいる方向とは反対の方向へ移動していくそれは、黒光りするものを身につけている。
生徒の間で度々されていたあの噂の真実が、俺の目の前にあった。
≪うっそ、コウそれマジで!?≫
ジョーは言った。
コウというのは俺のあだ名だ。光秀の光からコウ。ついでに名前は足立光秀。現在良条高校、通称トンチ高校の2年生。標準的な中肉中背の体格であることは4月の身体測定で明らか。完璧なまでのハト派と勝手に自負している。
夕食を食い終えた俺は暇になり、携帯片手に俺の友人の一人である牧田、通称ジョーと電話している。牧田のあだ名は、なんでも牧場のジョーからあだ名がついたらしい。「牧」の一文字しかあってねえのにかわいそうなあだ名をつけられたもんだ。まあ本人はさほど気にしてないが。
「薄毛がよっぽど恥ずかしかったんだろうな。最近じゃ植毛とか巧妙に隠す手段はいろいろあんのに、早まってヅラを買っちまったらしい。まあ、思い返してみりゃ、生え際があんなに不自然だったのはうなずける」
≪まあハゲ疑惑は前からあったけど≫
「それに、あの激しい運動をすることが予想される体育教師がヅラというのはいただけない。揚げたてのイカリングを通学鞄にアクセサリーとして付けるぐらい有り得ん」
《なんでそこでいきなりイカリングが出てくるんだよ》
「いや、さっきの晩飯でイカリング喰ってたから。あ、ヅラは内緒だぜ? 俺が偶然にも教職員用トイレからヅラをセットしながら出てきた先公を見ただけで、本人は隠しきれてると思ってるからな。いや〜、あの衝撃映像は今も頭から離れないぜ。ヅラがばれるぐらいなら、いっそ初めから素の状態を晒しときゃ、誰にも言われなかっただろうに。男がスカートはいて街を出歩くような今のご時世、禿げてたって別におかしくも何ともないのにさ」
最近では薄毛の悩みは病院で聞いてくれるらしいじゃないか。俺がもし今後ハゲるとしたら、育毛・養毛剤で満たした浴槽に頭ごと突っ込んで、「生えろ、伸びるんだ毛!!」なんて喚いてそうだ。いや、絶対喚いてる。まあ、結局は薬剤で満たされた浴槽の中に足を滑らせ突っ込んで溺死ってのがオチだと思うが。死体が発見された時は全身から毛がもっさりでチンパンジーと間違えられ、保健所で火葬————ロクな死に方してねえな。
とりあえず飼い主よ、最期までしっかり頼む。
≪男がスカート?≫
一人で勝手に話が逸れたが、ジョーの声で閑話休題。
「知らんのか?」
≪いや、男がスカートとか、初耳≫
「そういうの、『スカート男子』って言うらしい。メンズスカート専門店とかもあるって話を聞いたことがある」
≪この辺じゃ見ないけどなぁ……へえ≫
「ん、興味あるのか?」
≪俺は……恐らくはくことはないと思うけど、なんか、どっかの民族衣装みたいだな。別におかしいとは思わねえけど、俺は。いうかさ、話を元に戻すけど、なんであの先生、ヅラ片手にトイレに?≫
「さあ? まだ6月だというのにこの暑さだ。ヅラかぶってたら蒸れるかなんかで換気したかったんじゃねえの……あれ?」
突然、通話が途切れ、通信が切断されたことを示す単調な音が耳に響いた。
「なんだよ、いきなり切れやがって……」
不満を漏らしながら携帯の画面を見やるとそこには、隅に圏外マークが表示されていた。
……圏外?
俺の部屋は基地局に近く、いつもバリバリのバリ3、最高の通信環境が整っているはずなのだが……
ちなみに、田舎の実家から1000kmというふざけた場所で俺は独り暮らしをしている。今俺が住んでいる家は、高校生活を送るために親提供の、家具つき賃貸マンションの一室ってわけだ。閑静な住宅街の中にあって立地も結構いいし、独りにしてはなかなかのゴージャスな生活。そんな好条件の賃貸は高いはずなんだが、俺の家はあまり裕福ではない。俺の感覚的には六畳一間の安い物件あたりが実家の財力の限界だと思っている。 ならばなぜこんな上等物件に入居できたのか……俺にはわからん。そこら辺は田舎の山奥で金の湧き出る泉とか、徳川の埋蔵金でも見つけたんだろうとでも思って過ごしてる。それにしては使い道が地味過ぎるような気もするが、まあ気にしない。家賃とかそこらは直接俺には関係のない話だし……
「家賃は出世払いじゃ——!!」なんて声が風に流されてきたような気がするが……これも気にしない。
補足事項をもう一つ付け加えておくなら、家の整頓状態は……ハッキリ言ってよろしくない。部屋のいたるところにチラシやら宣伝のビラが落ちてるわ、コンビニとかスーパーの袋はその場でゴミ袋になってるわ、挙句には空き缶やらペットボトルやらがこれもまたところどころに転がっているわ、そりゃあもうとんでもない有様だ。そうはいっても、俺の部屋の汚さは下を見ればまだまだ並レベルで、テレビのゴミ屋敷の特集でリポーターが電撃訪問されたことはまだないし、住民の苦情を受けての行政代執行での強制掃除もされたこともない。
- Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.3 )
- 日時: 2012/04/22 23:12
- 名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)
いっそのこと部屋の汚さを極めてテレビに出演してみるか、顔にモザイクつきで。おまけで掃除までしてくれるもんなら儲けもんだし。いや、そこまでいくと社会的にモロアウトだ。そんなことがあれば、家族から風に乗ってとかそんなものじゃなしに、リアルに電話で「一家の恥さらし!」とか言ってマジ切れされそうだ。
さて、いきなり切れちまったがどうしようか? 時計は午後九時をさしている。ジョーとは長話してたし、通話も一回切れちまったから、もうこれを皮切りに通話は終了としても良いだろう。だが、ぶつ切りで通話を終わらすのは何となく気持ち悪い。そこでお開きの連絡をすべく、ジョーの携帯にダイヤルする。
……繋がらない。
まあ、圏外って出てるし、当たり前か。圏外になった原因はよく分からんが、何らかの通信障害が起きちまっていることは事実だ。気持ち悪い終わり方になってしまったことにもやもやを感じながら俺は携帯を閉じ、それをベッドの上に放り投げた。
ま、テレビでも見るかな。俺はリビングに入り、一人用のソファに陣取ってリモコンの電源ボタンをポチ。テレビはイマドキの地デジ対応の液晶テレビで、画面に映るのはどこにでもあるようなバラエティー番組。一ヶ月後に迫ったアナログ放送終了にもきっちり対応済みだ。
だが途中でまるで電波の悪いところでワンセグを見ているように、ところどころ画面に四角いノイズが映るようになった。
「…………。」
映像は次第に飛び飛び、音声も途切れ途切れにになり、次第にそれは酷くなっていく。画面に汚らしい大量のノイズを残してフリーズしたかと思うとついには黒画面、何も映らなくなっちまった。
「何なんだ、今日は厄日か?」
俺は立ち上がり、古代より受け継がれてきた電化製品、特に映らないテレビの(間違った)修復方法——とにかく叩く、を実践してみるが、一向に良くなる気配はない。まさかテレビが天に召されたのか? ここでホラー映画みたくテレビに突然心霊スプラッタ映像が流れるとか、そういうのは、ない……よな? そうなったら俺確実にショック死してるね。
「ったく、とんだ不幸だな……」
このテレビはもともと部屋を借りたときから置いてあったもので、高校入学から現在までの約一年と二ヶ月もの間、俺と生活を共にしてきた。こいつは俺の相棒、伴侶といっても過言ではない。もしテレビが壊れちまったのなら、俺の数少ない娯楽がなくなることになってしまう。しかもあと三週間ほどするともう夏休み、怠惰の夏休み生活に必須のテレビの故障は、俺にとっては死活問題だ。
「参ったな……」
俺が頭をポリポリと掻きながらそう呟くと同時に、視界が真っ暗になる。何が起きたのか一瞬理解できなかった俺だが、すぐにこれは停電だと気づいた。
「おいおい……どんな祟りだよ、これ」
祟りじゃ祟りじゃ〜!! と、声を大にして叫びたくなるほどの踏んだり蹴ったり。これはもうどうみても祟りの領域だろ。特に悪いことしてねえのに、なぜこうも言いがかりをつけるように災難が降りかかってくるのか?
もし神様とやらがいるのならば、その神様はかなり非常識で、理不尽なことを好むらしい。
……まさか、このタイミングで世界が大団円を迎えるんじゃねえだろうな!?
世界がどんな終わり方をするのかは知らんが、終末を迎えるのは俺が死んだ後にしていただきたい。人生気ままに無難に生きて無難に死に、無難な墓に入る。これが俺の生き方。そんな生き方のどこが楽しいんだよと思うかもしれないが、民主主義、自由主義の国に生まれてきたんだ。人に心配と迷惑をかけない限り、どう生きたって俺の自由だからな。
手探りで自室のベッドの上に置かれた俺の携帯を探し当て、ライト機能で暗闇の部屋を照らす。なんにせよ、停電の原因がブレーカーなら、それを元に戻せば済む話だ。暗くなった足元に注意を払いながら、玄関の配電盤まで行き、ふたを開けて確認してみるとブレーカーは落ちていないことが分かった。
「一番タチの悪いタイプの停電じゃねえか……」
絶妙な絶望を感じつつ、玄関のドアを開けて外の様子を伺ってみる。満天の星空と、漆黒の街並みのシルエット。その街並みの間をすり抜けるようにして、いつもよりのっそりと動く白いヘッドライトと赤いテールライトの数々。
街の信号が消えている。
俺の住む街は住宅地、メインのベッドタウン的位置づけで、都会ほど交通量は多くない。どうやらこの一帯が停電しているらしい。どうでもいい話、真偽は定かではないが、外国人にはベッドタウンと言うと変な想像をしてしまうらしい。理由はご想像にお任せする。
それにしてもこれ、落雷による停電か?
いや、この純粋な夜空を見るとそうではないことは明らかだ。遠雷も聞こえなかったしな。とにかく原因が何であろうが、電力会社の方で復旧してもらうのを待つしかない。大人しく待ってるほかはない。
ドアを閉めて部屋に戻り、やることがなくなった俺は、自分の部屋へと歩いていく。
「痛ってぇ——————!!」
暗闇の中で俺の足の小指に家具がクリーンヒット。思わず携帯を落っことしちまった。
「オォゥ……痛っててて——」
なかなかの激痛である。いや、マジで……今日は厄日だ。もしや、あの先公のヅラを見たからこんな目に? 理不尽過ぎるだろ。ヅラの祟りを憎みつつ、落とした携帯を手探りで探し当て、立ち上がった。
結局、しばらく待ってみたものの停電が復旧することはなく、しかも蛇口を捻っても水が出てこない。俺が住んでるのがマンションだからかもしれん。定期的にマンションの電気室を業者が点検するのだが、その時は電気も水も使えなくなる。確か、給水ポンプかなんかが電気で動くからとかそんな理由だった気がする。勉強するにしてもこんなに暗くちゃやってらんねえし、家事するにしても電気と水がない今、できることはほとんどない。
俺は痛んだ足を抱えながら、いつもよりも数時間も早くベッドに飛び込んで寝る羽目になった。
翌朝。
そういうわけで、いつもの倍ぐらいの睡眠時間をとったところ、身体はそんな大量の睡眠を一度に受け付けるだけの余裕がなかったらしく、「ごっつあんです」と、いつもよりも多めの睡眠時間をとっただけで、持て余した時間は起床時間の繰上げに使う選択をしたらしい。結果、普段遅刻寸前まで布団をかぶって一体化している俺にしては珍しく、午前六時に起床。携帯を開いてみる。電波を示すアイコンは通信環境は良好、回復したらしい。
早朝にしてはやけに明るい。そう思って天井を見上げると部屋の電灯がつけっぱなしになっている。……ああ、これも俺が寝ている間に復旧したのか。
ベッドを降りると真っ先にシャワーを浴びた。普段は朝シャンはしないが、昨夜は風呂にも入れずに寝ちまったし、何より寝汗を洗い流したかったからな。
タオルで髪に残った水分を拭き取りながらリビングに戻って、テレビの電源を入れてみる。おお、ちゃんと映ってる。
テレビにはいつもの通り、朝のニュース番組が流れていた。バラエティーな香りのスタジオで、アナウンサーがニュースを読み上げている。
《では、次のニュースです。昨夜午後九時過ぎ頃、○○県加治市港区の加治第三火力発電所でトラブルがあり、一時同市全域を含む60万世帯以上で大規模な停電が発生しました。このトラブルについて電力会社は、『詳しい原因は不明だが、中央制御室のシステムになんらかの要因によって計器が異常が発生した可能性が高い』との見解を示しており、『今後このようなトラブルが起きないよう、早期に原因究明を行い、最善を尽くす』とのコメントを発表しています》
ほう……昨夜の停電はこれが原因だったのか。まあ機械も完璧じゃねえから、たまにはこういうことがあっても仕方ないといえば仕方ない。
俺はテレビを凝視しながら、タオルをソファーの背もたれにかけ、トースターにパンを突っ込む。俺はどっちかというとパン派である。朝食に昨日炊いた白米の残りを食う、なんてことも結構あるので、どっちつかずの宙ぶらりん状態だが。テレビのアナウンサーは、さらにニュースを続ける。
《また、同市を含む周辺地域では当時、電子機器の誤動作やテレビ・ラジオ等の受信障害を起こすほどの非常に強力な電磁波を広帯域に渡って観測しており、管轄の総合通信局では、捜査機関との協力のもと、電波法違反の摘発を視野に、発信者の特定を急いでいます》
昨日の俺の生活からテレビを奪った犯人、早く見つけてほしいもんだ。しかしまあ、ニュースになるほど大規模だったってことは、あれか? 昨夜の祟りはこの周辺の住民はみな体験していたっつうことだよな? 迷惑な話だ。
今日の学校でこの話題が出てくる確率、多分100%。いつもよりも長い朝を満喫した俺は、制服に着替え、いつもの時間に学校へと向かった。
————この時すでに、俺の日常が非日常に変わるカウントダウンが着実に刻み始めていることを、俺はまだ知らない。