複雑・ファジー小説

Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.3 )
日時: 2012/04/22 23:12
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)


 いっそのこと部屋の汚さを極めてテレビに出演してみるか、顔にモザイクつきで。おまけで掃除までしてくれるもんなら儲けもんだし。いや、そこまでいくと社会的にモロアウトだ。そんなことがあれば、家族から風に乗ってとかそんなものじゃなしに、リアルに電話で「一家の恥さらし!」とか言ってマジ切れされそうだ。

 さて、いきなり切れちまったがどうしようか? 時計は午後九時をさしている。ジョーとは長話してたし、通話も一回切れちまったから、もうこれを皮切りに通話は終了としても良いだろう。だが、ぶつ切りで通話を終わらすのは何となく気持ち悪い。そこでお開きの連絡をすべく、ジョーの携帯にダイヤルする。

 ……繋がらない。

 まあ、圏外って出てるし、当たり前か。圏外になった原因はよく分からんが、何らかの通信障害が起きちまっていることは事実だ。気持ち悪い終わり方になってしまったことにもやもやを感じながら俺は携帯を閉じ、それをベッドの上に放り投げた。

 ま、テレビでも見るかな。俺はリビングに入り、一人用のソファに陣取ってリモコンの電源ボタンをポチ。テレビはイマドキの地デジ対応の液晶テレビで、画面に映るのはどこにでもあるようなバラエティー番組。一ヶ月後に迫ったアナログ放送終了にもきっちり対応済みだ。
 だが途中でまるで電波の悪いところでワンセグを見ているように、ところどころ画面に四角いノイズが映るようになった。


「…………。」


 映像は次第に飛び飛び、音声も途切れ途切れにになり、次第にそれは酷くなっていく。画面に汚らしい大量のノイズを残してフリーズしたかと思うとついには黒画面、何も映らなくなっちまった。


「何なんだ、今日は厄日か?」


 俺は立ち上がり、古代より受け継がれてきた電化製品、特に映らないテレビの(間違った)修復方法——とにかく叩く、を実践してみるが、一向に良くなる気配はない。まさかテレビが天に召されたのか? ここでホラー映画みたくテレビに突然心霊スプラッタ映像が流れるとか、そういうのは、ない……よな? そうなったら俺確実にショック死してるね。


「ったく、とんだ不幸だな……」


 このテレビはもともと部屋を借りたときから置いてあったもので、高校入学から現在までの約一年と二ヶ月もの間、俺と生活を共にしてきた。こいつは俺の相棒、伴侶といっても過言ではない。もしテレビが壊れちまったのなら、俺の数少ない娯楽がなくなることになってしまう。しかもあと三週間ほどするともう夏休み、怠惰の夏休み生活に必須のテレビの故障は、俺にとっては死活問題だ。


「参ったな……」


 俺が頭をポリポリと掻きながらそう呟くと同時に、視界が真っ暗になる。何が起きたのか一瞬理解できなかった俺だが、すぐにこれは停電だと気づいた。


「おいおい……どんな祟りだよ、これ」


 祟りじゃ祟りじゃ〜!! と、声を大にして叫びたくなるほどの踏んだり蹴ったり。これはもうどうみても祟りの領域だろ。特に悪いことしてねえのに、なぜこうも言いがかりをつけるように災難が降りかかってくるのか?
 もし神様とやらがいるのならば、その神様はかなり非常識で、理不尽なことを好むらしい。

 ……まさか、このタイミングで世界が大団円を迎えるんじゃねえだろうな!?

 世界がどんな終わり方をするのかは知らんが、終末を迎えるのは俺が死んだ後にしていただきたい。人生気ままに無難に生きて無難に死に、無難な墓に入る。これが俺の生き方。そんな生き方のどこが楽しいんだよと思うかもしれないが、民主主義、自由主義の国に生まれてきたんだ。人に心配と迷惑をかけない限り、どう生きたって俺の自由だからな。

 手探りで自室のベッドの上に置かれた俺の携帯を探し当て、ライト機能で暗闇の部屋を照らす。なんにせよ、停電の原因がブレーカーなら、それを元に戻せば済む話だ。暗くなった足元に注意を払いながら、玄関の配電盤まで行き、ふたを開けて確認してみるとブレーカーは落ちていないことが分かった。


「一番タチの悪いタイプの停電じゃねえか……」

 絶妙な絶望を感じつつ、玄関のドアを開けて外の様子を伺ってみる。満天の星空と、漆黒の街並みのシルエット。その街並みの間をすり抜けるようにして、いつもよりのっそりと動く白いヘッドライトと赤いテールライトの数々。

 街の信号が消えている。

 俺の住む街は住宅地、メインのベッドタウン的位置づけで、都会ほど交通量は多くない。どうやらこの一帯が停電しているらしい。どうでもいい話、真偽は定かではないが、外国人にはベッドタウンと言うと変な想像をしてしまうらしい。理由はご想像にお任せする。

 それにしてもこれ、落雷による停電か?

 いや、この純粋な夜空を見るとそうではないことは明らかだ。遠雷も聞こえなかったしな。とにかく原因が何であろうが、電力会社の方で復旧してもらうのを待つしかない。大人しく待ってるほかはない。
 ドアを閉めて部屋に戻り、やることがなくなった俺は、自分の部屋へと歩いていく。


「痛ってぇ——————!!」


 暗闇の中で俺の足の小指に家具がクリーンヒット。思わず携帯を落っことしちまった。


「オォゥ……痛っててて——」


 なかなかの激痛である。いや、マジで……今日は厄日だ。もしや、あの先公のヅラを見たからこんな目に? 理不尽過ぎるだろ。ヅラの祟りを憎みつつ、落とした携帯を手探りで探し当て、立ち上がった。

 結局、しばらく待ってみたものの停電が復旧することはなく、しかも蛇口を捻っても水が出てこない。俺が住んでるのがマンションだからかもしれん。定期的にマンションの電気室を業者が点検するのだが、その時は電気も水も使えなくなる。確か、給水ポンプかなんかが電気で動くからとかそんな理由だった気がする。勉強するにしてもこんなに暗くちゃやってらんねえし、家事するにしても電気と水がない今、できることはほとんどない。

 俺は痛んだ足を抱えながら、いつもよりも数時間も早くベッドに飛び込んで寝る羽目になった。





 翌朝。
 そういうわけで、いつもの倍ぐらいの睡眠時間をとったところ、身体はそんな大量の睡眠を一度に受け付けるだけの余裕がなかったらしく、「ごっつあんです」と、いつもよりも多めの睡眠時間をとっただけで、持て余した時間は起床時間の繰上げに使う選択をしたらしい。結果、普段遅刻寸前まで布団をかぶって一体化している俺にしては珍しく、午前六時に起床。携帯を開いてみる。電波を示すアイコンは通信環境は良好、回復したらしい。

 早朝にしてはやけに明るい。そう思って天井を見上げると部屋の電灯がつけっぱなしになっている。……ああ、これも俺が寝ている間に復旧したのか。

 ベッドを降りると真っ先にシャワーを浴びた。普段は朝シャンはしないが、昨夜は風呂にも入れずに寝ちまったし、何より寝汗を洗い流したかったからな。
 タオルで髪に残った水分を拭き取りながらリビングに戻って、テレビの電源を入れてみる。おお、ちゃんと映ってる。

 テレビにはいつもの通り、朝のニュース番組が流れていた。バラエティーな香りのスタジオで、アナウンサーがニュースを読み上げている。

《では、次のニュースです。昨夜午後九時過ぎ頃、○○県加治市港区の加治第三火力発電所でトラブルがあり、一時同市全域を含む60万世帯以上で大規模な停電が発生しました。このトラブルについて電力会社は、『詳しい原因は不明だが、中央制御室のシステムになんらかの要因によって計器が異常が発生した可能性が高い』との見解を示しており、『今後このようなトラブルが起きないよう、早期に原因究明を行い、最善を尽くす』とのコメントを発表しています》


 ほう……昨夜の停電はこれが原因だったのか。まあ機械も完璧じゃねえから、たまにはこういうことがあっても仕方ないといえば仕方ない。
 俺はテレビを凝視しながら、タオルをソファーの背もたれにかけ、トースターにパンを突っ込む。俺はどっちかというとパン派である。朝食に昨日炊いた白米の残りを食う、なんてことも結構あるので、どっちつかずの宙ぶらりん状態だが。テレビのアナウンサーは、さらにニュースを続ける。


《また、同市を含む周辺地域では当時、電子機器の誤動作やテレビ・ラジオ等の受信障害を起こすほどの非常に強力な電磁波を広帯域に渡って観測しており、管轄の総合通信局では、捜査機関との協力のもと、電波法違反の摘発を視野に、発信者の特定を急いでいます》


 昨日の俺の生活からテレビを奪った犯人、早く見つけてほしいもんだ。しかしまあ、ニュースになるほど大規模だったってことは、あれか? 昨夜の祟りはこの周辺の住民はみな体験していたっつうことだよな? 迷惑な話だ。
 今日の学校でこの話題が出てくる確率、多分100%。いつもよりも長い朝を満喫した俺は、制服に着替え、いつもの時間に学校へと向かった。

 ————この時すでに、俺の日常が非日常に変わるカウントダウンが着実に刻み始めていることを、俺はまだ知らない。

Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.4 )
日時: 2012/04/22 23:34
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)


第1話-2 計算式の彼女 黒煙 1/2

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 学校に着く時には、6月中旬だというのに、フライング気味に始まった初夏の暑さのせいで、額にうっすらと汗が滲み出ていた。登校中の他の生徒とともに校門をくぐり、下駄箱で上靴に履き替える。

 下駄箱で靴を履き変える度に毎回思うのだが、なぜわざわざ下靴からほぼ学内専用仕様の上履きに履き替えるのか、その意義が分からん。しかもやたらとキュッキュキュッキュうるさいし、変にグリップ性は高いし。大体、「廊下を走るな!」と教師陣が廊下で追いかけっこしている男子生徒をよく注意するが、それならそんなハイスペックな上履きを履かせんなって話だ。走り屋にスポーツカーを与えるのと一緒だ。全校生徒に下駄なり草履なりスリッパなりを履かせりゃ、走りにくいから廊下を走る生徒はゼロとはいかないが、かなり減ると思うんだがな。

 下駄と草履は冗談だが。歩く度にカラカラと音が鳴るんじゃ、耳障り過ぎるし。まあ、スリッパはスリッパで、蹴り飛ばして遊ぶガキ生徒がいそうな気がする。“明日の天気を占うぜ!!”とか言ってな。蹴り飛ばして普通に落ちたなら晴れ、ひっくり返ったら雨、横に落ちたら曇りとかそんなんだったような。てか曇りとか無理だし。全員が全員じゃないが、そういうおめでたい奴もいるわけで。まあ、一番いいのはそんな危険な生徒を教師が粛清してくれることなのだが……生徒の親がバケモンだったときのリスクとか社会的な世論云々考えると非現実的である。親がバケモンで市議会議員とかやってたら目も当てらんねえしな。


 そんなどうでもいいような、どうでもよくないようなことを考えながら教室のドアを開けると、冷房の効いた空気が足元を流れ出た。ひんやりとした空気が無駄に逃げないよう、さっと入り、ドアを閉める。これはクラスメイト内では暗黙の|了解《マナー》だということは、どこの学校でもそうだろう。

 ふう〜、生き返る……汗が急速に冷却され、氷漬けにでもされたような感覚になる。オハヨーとか、うーっすとか、まあそこらの適当な挨拶をクラスメイトと交わし、鞄を机の横に置いて、俺の|座席《オアシス》に座る。今日もここで何が面白いのか見いだせない授業を延々と聞いて、板書を写すってわけだ。まあ、こんな言い草をしてるが、成績はほぼ平均辺りをさまよっている俺だ。勉強してない訳じゃない。


「はぁー……」


 特に意味もなくため息をついて、机に突っ伏す。散々寝たため頭はすっきり爽快どころか、むしろ不愉快さを感じる。というのも、突っ伏した状態では周囲の情報は聴覚のみしか入って来ない。聴覚から出来るだけ多くの情報を引き出そうと脳が躍起になり、無意識的に耳の感度が上昇する。結果、どうでもいいような物音が脳に鋭く刺激し、それが不愉快さの原因になっている。なら突っ伏すなといわれたらそこまでなのだが、この行動は毎朝同じように続けている流れ作業的な習慣であるから、いつもと違う行動を起こすと、どこか違和感が生じてしまうわけで。


「オッス、コウ!」


 そんなこんなでしばらく突っ伏しているとジョーが陽気に近づいてきたのが音と声で分かった。なんか応対するのが、けだるい。明確な理由は分からんが、今の不愉快な感情をジョーに八つ当たりしてるのか、なんかイラッとくる。俺の反抗期はとっくの昔に終了したはずなんだがな……
 まあ、俺に多少の気分屋気質があるのは否めない。とりあえずここは仮眠中ということで通させてもらおう。


「…………。」

「毎度同じく就寝中……か。おいこらコウ〜、起きろ〜!」

「…………。」


 ジョーが俺の頭を拳でドリルよろしくぐりぐりとしているのだが、無視。けだるさが抜けるまでこのままにしてくれ……


「……痛って!」


 ところがそう思った瞬間に頭部に人のものとは思えないような強烈な打撃を受け、思わず声を上げて飛び起きちまった。


「……やっと起きたわね、コウ。はぁ、あんたは学校を寝床か何かと間違えてるじゃんないの? 睡眠ぐらい家でとってきたら?」


 そんな女子の声がして見上げると、メガネをかけた|木下千賀《キノシタ チカ》、通称チカがいた。人物紹介をすると、俺の友達の一人で、性格はやや活発。髪が波打っていて、クセ毛なのは生まれつきだそうで、本人曰く「私、ストレートヘアの遺伝子を持って生まれたかった」とのこと。本人は納得してないが、俺的視点から言えば、今のヘアスタイルの方が雰囲気的に似合ってる。一度俺が、金出してパーマかける奴もいるんだから、そいつらから見れば、ストレートになりたいとは贅沢な悩みだな、と言ったことがある。

その瞬間にチカの目の色が変わったね。鬼に。

「あんた、私の悩みなんて分からないでしょ!? 髪の手入れは面倒だし、櫛は髪にすぐ絡まっちゃうし、朝は寝癖が直らなくて地獄!分かる!?」

と、チカを慰めるつもりが逆に逆鱗に触れたらしく、結果的に俺はぶっ飛ばされた。髪の質で悩んでるやつに軽率な発言は慎むべきだと学習したよ。そんなどこにでもいそうないなさそうな感じのバイオレンスな女子。

 で、どうやら俺はこいつから肘打ちを食らったらしい。俺は今の衝撃で死滅した脳細胞を弔うように頭を抱えつつ答えた。


「どこで誰が寝ようが勝手だろうが……」

「あ〜もう、そーゆー気だるさ満点の態度を見てると、こっちまで気だるくなってくるじゃない!」

「今日に始まったことじゃねえだろ……」

「これから毎日今日みたいに起こしてやってもいいんだけど?」

「……喜んで遠慮させていただく」


 今日のような衝撃を毎日食らうようじゃ、そのうちボケてきそうだ。俺はチカの近くにいるジョーに視線を合わせる。


「で、俺を起こしてまで言いたかったことって何だ?」

「いや、昨日の停電すごかったな、って」

「たったそれだけかよ……」


というか、すごい停電って何なんだよ。

Re: マジで俺を巻き込むな!! ( No.5 )
日時: 2012/04/22 23:36
名前: 電式 ◆GmQgWAItL6 (ID: ehSJRu10)


第1話-2 計算式の彼女 黒煙 2/2

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「ん? なんか言った?」

「……いいや、何にも。昨日のアレは、すごいというか、まあ、災難だったな。携帯は繋がらなくなる、テレビも見れなくなる、挙句の果てには停電だ。しかも携帯とテレビに関しては、どっかのアホが相当強力な|電波妨碍《ジャミング》を仕掛けてきたらしい。迷惑な話だぜ、まったく」


 一時間目の始業のチャイムが鳴った。だが、一時間目の担当の先生はまだ来ていない。生徒はチャイムで動くというより、先生が来てから動くことの方がよっぽど多い。そういうわけでチャイムが鳴っても、席につかず友人とだべったりふざけあったりしている生徒が多く見受けられる。俺たちも例に漏れずその一部なのだが。


「あたしは数学の宿題してたら急に真っ暗になっちゃって。しばらく電気が元に戻るのを待ってたんだけど、なかなか復旧しなかったでしょ? 今日提出の宿題も結局できずじまいで学校に来たのよ」


 俺はチカの席に目をやる。机の上には数学の教科書とノートが広げられているのが見えた。俺はこんな面倒なものはさっさと終わらせちまったからあわてる心配はない。俺にとってはチカの宿題なんてどうでもいいことなのだが、一応言っておくことにした。


「宿題ができてねえのに、俺たちとこんなくだらない話してて大丈夫なのか?」

「数学の授業は午後からでしょ? まだ時間があるから大丈夫じゃない?」

「『じゃない?』って聞かれてもだな……俺は知らん。どうせそうやって余裕かましてたら『想定外の出来事が〜』って事態になるのが関の山だ」

「想定外? たとえば?」

「例えばだな……」


 俺が例を挙げようとした時、教室のドアを開ける音が聞こえてきた。入ってきたその男性教師——俺のクラスの担任は、教壇の前に立った。


「今日の一時間目の国語が突然の時間割変更で数学になるとか、な」


 俺がニヤリと笑ってチカを見上げると同時に、担任はパンパン、と大きく二回手を叩いて生徒の注意を引いて言った。


「よ〜し、お前ら席に就け! 今日の一時間目の国語担当の三村先生は急用で遅れてくるとの連絡が入った。そういうわけで、国語と数学の時間を入れ替えることになった」

「ぇ……ええええ!?」


 チカは目が点になり、サァーっという効果音が聞こえてきそうな勢いで顔を青くする。ほかの生徒からも一部、不満の声が上がった。不満を上げた生徒もおそらく昨日の停電で宿題ができなかったか何かでまだ未完成なんだろう。


「ま、命運を祈っておく。頑張れ」


 チカは慌てて自分の席に戻って宿題を大急ぎでやるという悪|足掻き《あがき》を始める。そんなことしてもすでに手遅れなのは目に見えてるわけだが……本人からすりゃ「やらないよりかはマシ」ってやつだろう。


「ジョー、お前は宿題、大丈夫なのか?」

「俺は宿題は出された当日に全部仕上げてるから。 もっとも、提出日にそれを持ってくるのを忘れることが多いけどな」

「そりゃかなり惜しいな……で、今日はちゃんと持ってきたのか?」

「ああ、持ってきたさ。……多分」

「ハハ、こりゃまた自信のない返答だな」

「おっし、|牧田《ジョー》、席に就こうか」


担任の注意する声を聞いてジョーはそれじゃまた、と小走りに自分の席へ駆けていく。

 そうして始まった一時間目。周囲を見渡せば、授業の板書を写しながら、裏で宿題も仕上げようと企むチカをはじめとする曲芸師が何人かいる。教壇に立って一段高いところから教室を見下ろす担任には、その様子がしっかりと見えているらしく、「宿題は家でやるもんだろ……」とポツリ。普段はそんな曲芸師はあまりいないのだが、停電の影響で今日はいつもよりも多いようだ。

 一方、ジョーはというと、さっきから何やらカバンの中をがさごそと探している。どうせ宿題でも忘れたんだろう。俺がそう思ったと同時に、一冊のノート——数学の宿題のノートと思わしきものをカバンの中から引っ張り出し、ジョーは安堵の表情を見せる。

そんな感じで授業は進み、一時間目終了10分前に差し掛かった時だった。


「『(x−a)^2+(y−b)^2<r^2』の表す領域は、この円Cの……」


 突然、雷が鳴り響いたような重低音が響き、教室の窓がカタカタカタと鳴った。あまりの不意打ちな音に、公式の解説をしていた担任の声が詰まる。何、何が起こった、と生徒が騒ぎ出して教室の窓に詰め寄る。担任も窓に詰め寄ってその音源を探しだす。俺も気になったので自分の席を立って窓の外を眺める。

 ここから見えるはるか遠方で、黒煙と巨大な炎でできたキノコ雲が上がっているのが見えた。
まさか……核戦争か!? ……な訳ないか。それにしちゃ規模が小さすぎる。
 北の将軍様謹製の核ミサイル(粗悪品)でもこんな爆発はしないだろう。いったい何が燃えているのかは分からんが、遠くでキノコ雲が上がった場所から今度は黒煙が連続的に上がっている。どうやら、何かが爆発して火災が起きたらしい。教室からでは、「爆発した何か」が一体なんであるのかは特定できない。だが、爆発の衝撃がここまで届いたことを考えると、相当ダイナミックに吹っ飛んだらしいということは分かった。


「はいはい、お前ら、もういいだろ、あとちょっとで授業も終わる。早く席に就け」


 担任に催促されて渋々自席に戻って筆記用具を持つ生徒。昨日、今日と二日続けてこんなビッグイベントが開催されるとは、この街も話題的にホットな場所になりそうだ。

……悪い意味で。