複雑・ファジー小説
- Re: Ultima Fabura—〝終焉〟を始める物語—改版 ( No.7 )
- 日時: 2012/04/28 18:58
- 名前: Kuja ◆vWexL7SosE (ID: YsvlUcO/)
- 参照: 終焉の物語の幕開け
>>0006 prologue
第一話 夜の街
——ここは、夜の街〝レゲベル〟。
様々な出店が一様に橙色の暖かな光を灯し、レンガの地面を不規則に照らしている。経営者たちが各々で精神力を少しずつ使い、灯す炎が。
荒野にある故、昼間では魔物が入ってくることも少なくはない。その為、魔物の嫌う炎を灯して夜に人は集まるのだ。一夜中少しずつ魔力を消費していくことになり、それに疲労した人々は昼間には強固な建物に篭もり眠っている。それが〝夜の街〟の所以である。
昼に通りかかれば、ただ住人の住まう建物があるだけの村。
そこでわかる特徴と言えば3つ。中央の小さな噴水、レンガ色のタイルの敷き詰められた地面、質素な色の建物。
大都会にいた者が立ち寄れば、昼間では人さえ出歩かないこの場所は「廃村」としか言いようの無い殺風景が広がる。
しかし今は夜。昼とは比べ物にならない位、とにかく——騒がしい。
そしてこの街には『無法者』も少なからず立ち寄る。
「追え!追え!”アイツ”に間違いないッ!!魔導士の証の銀蒼の瞳!赤いマント、鉄錆色の髪!間違いなく本物の〝雷獅子〟だッ!!」
見るからに盗賊のような汚らしい身なりをした男が、四つ折にしたボロ切れのような紙を片手に握り締め、もう一方に銃を構えている。
丁度今、駆け上がる勢いで八百屋の布製の屋根に軽々と着地した少年が、そいつの言葉にぴくりと反応して振り返った。
視線を受けた盗賊は、その強い視線に思わず後ずさる。
「俺の髪は鉄錆色じゃねェっての!」
舌をべっと出す。更に「ば〜か」と言われ、盗賊はブチ切れた。
持っていた四つ折の紙片は手配書であった。それをかなぐり捨て、盗賊の頭領は憤怒の形相で辺りの通行人を突き飛ばす。
地に落ちた手配書には間違いなく目の前の少年の顔。もう17、8歳位の見た目だが、無邪気にべっと舌を突き出している事でどこか幼さを感じさせる。
そして写真の舌には強い魔力を持つ者だけの証である魔方陣。これも、そこにいる少年と同じだ。
「野郎ッ!!ナメていやがるッ!!」
「お頭、手出しするのは自殺行為に等しいかと。相手は3億2000万の賞金首、俺達が束でかかってもいけるかどうか」
横から一味の一人が冷静な声音で頭領をいさめる。
「そーゆー事!ししっ!んじゃまたな!」
「っ!クソッ!!待てェッ!!」
少年は盗賊の罵声を浴びながらさらに軽やかに跳躍。
その盗賊はというと、あらゆる店の商品を跳ね除け、跳ね飛ばし、騒音と共に走る。店員の怒声などお構い無しだ。
朱色の少し混じった茶髪、そして銀色の不思議な輝きをたたえた蒼い瞳の少年は店に迷惑がかからない様屋根をぽんぽんと移動しているが、後ろの騒動をも他人事のように噴水広場までたどり着く。
「あ〜あ〜あ〜店が・・・。ひっでェなこりゃ」
「おいヴィル!街で騒ぎは起こすなと言っただろ!」
背後を見つつ、呟いた声に反応して少年の背へ彼にとってはもはや聞き慣れた声がかかった。
「うん?・・・あ〜、そうだったっけ。ごめんごめんすまん」
「ったく、フザけるのも大概にしてくれ」
〝雷獅子〟——ヴィルに話しかけた黒髪の青年は深緑のマントを翻して黒淵眼鏡を外し、踏み潰した。
青年の後ろには数人の女子が群がっている。勿論、本人がナンパしたとかではない。タイプが違いすぎる。
目前の光景に、ヴィルは肩をすくめた。
「まだここにいるか?」
「・・・?何故だ?情報収集は済んだぞ」
「何でもねェよ」
恵まれすぎてるって全世界の男子から批判受けるぞ、お前。
異常に女にモテすぎる奴ってどこかでナルシストだったりするけど、こいつは驚くほどニブいからそういう事は無いんだろうな。クソッ、いじり甲斐の無い奴め。
女なんて俺はどうでもいいけどな。弱いし。泣き虫だし。役立たず。あれのどこがいいんだ??俺にはわかんねーけど。
と、先刻の騒動の中心であった盗賊が大股で通行人を蹴散らし広場までたどり着いた。瞬間、本人は視界の人物にしりごむ。
「!!?横にいるのは、お前・・・!!〝風白龍〟のフェルドかッ!?・・・なぜ、政府の犬がここに・・・」
「悪いな。俺は政府とは手を切った。今はこいつと組んでる。——つまり、フダツキだ」
「額3億1000万だよな」
「ああ」
額を聞いた男は、あっけに取られたようにぽかんと口を開けたまま「総合賞金額6億3000万・・・!?」と呟き、卒倒しかけた。
手下が頭領の巨体を支える。しかし盗賊のそれは大きすぎ、重すぎて一同は悪戦苦闘していた。
ヴィルはそれを見て爆笑していたが、突如噴水の向こう側から響いた恐慌の悲鳴に相棒のフェルドと顔を見合わせる。
「なんか出たっぽいな。やるか?」
「そのための俺たちだろ?」
「んっ!そうだな!」
「ギャアアアアアアア!!!助けてくれェエ!!」
盗賊たちは頭領を運び出すことに成功していたが、情けないことにその彼らの悲鳴がまた別の方向から聞こえた。
——狼のような風貌だが、それよりも大きく、たくましい。
何より殺意が強く、よりによって今は飢えた瞳。赤い瞳が黄と黒の縞模様になっている瞳が見えた。それを確認し、フェルドはくいと顎でその方向を指す。
「ヴィル、俺はあっちの化狼共を片付けてくるぞ」
「んあ?お好きにドウゾ。あっちいっぱいいてめんどいし」
「お前・・・。まぁ、いいか」
露骨すぎるヴィルにあきれるフェルド。
化狼のほうに振り返ったフェルドは肘から腕にかけて風で鋼の刃を形成する。
共に出てきたのは、彼の武器である大きな刃だ。彼のブーツの踵にも同じようにして鋭利な刃が生み出される。
駆け出したフェルドを見送ったヴィルは、もう一箇所の悲鳴の中心部へと向きを変えた。
「うっし!俺もやるか!!」
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