複雑・ファジー小説

Re: Ultima Fabura—〝終焉〟を始める物語— リメイク ( No.10 )
日時: 2012/05/07 22:42
名前: Kuja ◆vWexL7SosE (ID: YsvlUcO/)
参照: 魔導士は朱の輪舞曲を踊る。

>>0007 Before episode

     第二話  共食い







 準備体操とでもいった風に腕をぐるぐると回し、肩の骨をコキコキと鳴らして俺は身構えた。相手体格の高さはおよそ俺の3倍、横幅は——広すぎてワカラン。
 青色のたてがみ、橙色の毛並み。色彩の強調の効果で随分と、派手だ。・・・んで、短足。ん?いや、豚足か。
 そのぶっとい豚足を、悲鳴の中心核もとい巨体の化け物もとい化獣ガーベルはブンッと勢いよろしく振り上げる。
 しかし応戦、回避は愚か、俺は目を閉じた。
「——〝雷獅子・爪〟」
「ガルルルアアアアア!!!!」
 振り下ろされる巨大な前足が風を切る音が耳に入る。人一人の大きさほどもある爪が地面をえぐったのだろう。
 しかし、そこに獲物はいない。
 代わりに後ろから——
「〝【噴】〟!!」
「!!ガウウア!!!」
 自分の背後に獲物の姿を確認したらしい化獣はそっちに向き直り、今度は大きな口を開けた。
 しかし突如その動きは急速に速度を落とし、巨体は白目をむいて地響きとともに地面に突っ伏した。
 後頭部から尾にかけて、血液にも似た赤い体液が大量に噴出。
 手に握っていた雷剣を魔力で放電させ、消すと俺は返り血を拳でぐっとぬぐった。
「ザコめ!」
「ウ゛オ゛・・・ゴ」
「さ〜てと。あっちはもう片付いてんのかな?」


   *   *


 盗賊たちのいる方からたえず断末魔の恐ろしい叫びと、骨の折れる嫌な音が響く。
 フェルドは大胆にも、化狼の群れに突っ込んだ。
 化獣よりは小さいからと言って相手は高さ2M近く、鼻先から尾にかけては裕に3Mはあるだろうと思われた。
 盗賊では相手にならないらしい化狼は〝敵〟と呼べるレベルの者が出てきたことで、戦闘態勢にはいる。


 ———ボスとも言える、最も大きな化狼が人の腕を喰らい尽くしたのが合図だった。


 手始めとでも言うように5匹が一斉に5方向から跳びかかってくる。
 なるほど、敵も馬鹿じゃない。逃げ場を無くし敵の逃げ道をなくすとは、集団戦の基本。本能でそうなっているとはいえモンスターの割にはよくやるほうだ。まずはお手並み拝見というところか。
 なら最初の標的は——正面の、お前だ。
 フェルドは5匹よりも遥かに素早く、標的に向かって跳躍。凶器の備わる、踵をしっかりと化狼の首の根元に添える。
 雑魚に魔力なんて使わない。後先考えずに突っ込むバカと俺は違う。勿論頭に浮かぶ顔は相棒だが。
 恐らく悲鳴を上げる隙も無かったのだろう化狼は身体の様々な部位をおかしな方向にねじ曲げ、吹き飛んだ。
 一体ではなく、五体全て。
 下に落ちるのは吹き飛ぶ勢いで砕け散った化狼の遺骸のそれぞれの部位。勿論どれも原形をとどめることは無く、そして人間よりも浅黒い深紅に染まっている。
 たじろぐ哀れな化狼。
 戦場に情けなど無用。人の子供を兵士時代に殺めさせられた経験のあるフェルドに染み付いた教訓だった。
 生きるためではない、人を殺めるために生まれたモンスター。牙から滴る血は間違いなくその犠牲者の血だろう。身を守るために人はそれを殺める権利がある。でなければ種は滅ぶ。
 そして風の魔導士は一撃を放った。


   *   *



「おい、終わったかー?——うわ、またハデにやらかしたなぁ」
 動かなくなった化獣の元を離れて相棒のもとへと駆けつけたものの、ヴィルは惨状の中心に立っている彼を見て肩をすくめた。人のことを言えないことには気づいていない。
「別に。普通だ」
「これのどこが普通だよ。お前・・・・・・そういう感覚狂ってるんじゃねェぞ」
「元からだ」
 素っ気なく、フェルドはそう切り返す。とりあえず手を洗えるところは・・・・・・と、噴水に目を止めた瞬間、人が逃げ去り静寂を守っていた街に咆哮が響き渡った。
「ちっ、面倒だな・・・・・・」
「?なんで」
「お前がちゃんと息の根を止めなかったからあいつが仲間呼んだんだよ」
 まじかよ。冗談じゃねェ。つか、さっきので鼓膜破けそうだ。んで、さっきのはなんで死んでねェんだよ。変にしぶとい奴め。
 心の中で悪態をつきつつ、ヴィルは顔をしかめて街の奥のほうを見遣る。
「ほら来やがった」
「げ、早っ」
 1、2、3・・・。
 いや待て。それ以前に、さっきからいた瀕死の1匹が突っ込んでくるぞ。
「5匹。あわせて6匹。3匹ずつだな」
「わあってら。んで、こいつはどっちがトドメさすんだ?」
「責任持ってお前が刺すだろ、普通。」
 突進を軽くかわしたフェルドは、そのまま再び高く跳躍。深緑のマントがはためく。
 体制が宙で逆さまになったまま腰に結わえていた大型拳銃をブーツの中からももう一丁取り出し、続けざまに3発連射。標的の背へと着地。他の化獣が背の上のフェルドをつぶそうと腕を振り下ろしたが、彼はそれをバク宙で回避。爪は彼の乗っていた1匹に深々と突き刺さり、肉をえぐった。
 それを見届け、先程トドメを刺し損ねた化獣が突っ込んでくるのも視界に確認した。
 雷で生成された大剣で力任せに化獣の一撃をはじいてやると、そいつは焦りと憤りで変な声を上げた。
「ごチュージョーサマ!!」
 化獣は今度こそ、断末魔をあげた。
首が落ちた(正確には、落とした)のだから、当然だろう。
 風の魔術で5体をもろとも吹き飛ばしたフェルドは、後ろにいるヴィルの横、本人からすれば後方へ跳躍した。
「ご愁傷様だろ」
「おお、そうそう、それ。まぁ化獣相手じゃ言葉も通じねェからいいよ」
「なら言うな。—————!!!」
「うわ、なんじゃありゃ」
 恐ろしいことに目の前の光景、それは化獣同士の共食いだった。2人意外、相変わらず人のいない静けさを守る〝夜の街〟に壊れた間欠泉のごとく、噴出すは赤い液体。
 響くは折れる骨の音。
 死骸の転がる音。
「奥方の見るモンじゃないな」
「間違いなく吐くな」
「まぁこんなとこに奥方なんていたら相当驚くけどな」
 ヴィルにしては正論だ。とフェルドが呟くのが聞こえた。失礼な。
 こんな状況で、こんな呑気な会話ができるほどに二人はこういう状況に、こういう光景に



・・・慣れすぎていた。



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