複雑・ファジー小説
- Re: Ultima Fabura スレ建てた当日に参照数100とか ( No.25 )
- 日時: 2012/05/07 22:43
- 名前: Kuja ◆vWexL7SosE (ID: YsvlUcO/)
- 参照: 終焉の始まりの物語を視る者
>>0010 Before episode
第三話 黒鳥
命の窮地を悟った化獣、それは生存本能のままに最善の手段を取った。一体一体で敵わない相手ならば、と。力の勝る者が有無を言わさず劣るものを喰らう所謂、弱肉強食。
あたりはすでに、血の海だった。無理もない、高い建物の五分の三ほどの大きさの化け物が共食いを繰り返す場なのだ。
建物に、唖然とする二人に。それは、降りかかる。
最後の化獣がゆらりとこちらに振り向く。しかしその顔は先刻よりも醜悪であり、生ける者への執着で醜く歪んでいた。
「・・・!?おい、膨らんでいってるぞ!!」
「巨大化するんだろう、黙れ。うろたえるな、臆病者」
うろたえてなんかいねェよ、と言い返したかったところだったが、化獣の膨らみ方の加速にヴィルは閉口する。建物を越す体格となったそれは、爪の一枚でさえ2Mはあるかというほどだ。
「さぞかし暴れるだろうな、この怪物は」
「くぁ〜っ、面倒臭ェ」
「元凶が言うな、馬鹿が」
呟き、口元をニヤリと笑いの形に緩めたフェルドは駆け出した。
あの野郎、独り占めする気だな!?いや待て、あいつ今・・・・・・。
「ばかとはなんだ、バーカ!!」
・・・・・・まぁ当然、負け犬の遠吠え。
と、標的に向かったフェルドが何かの異変に気づき速度を落とす。ヴィルも化獣を注視。と、化獣の動きが鈍った。目を凝らせば、その化け物のわき腹を走る、素早い黒の影。
「誰だ」
「わたし?」
警戒するフェルドの投げた誰何に答え、スタッと目の前に着地したのは、黒髪に黒装束の一人の女。
瞳は銀闇【ギンヤミ】。普通の人間では持たない、特殊な色だ。銀闇の瞳は、強い魔力を持つ純粋な鴉族しか授からない。
つまりこいつは、純粋な鴉族——だ。
それを証明付けるかのように、緩やかなウェーブのかかった黒髪の下に生えるは黒い羽。
「リトゥス・レフトベッカ・・・・・・。 よろしくね」
「あ!俺そいつ知ってるぞ!!賞金首だ。俺達より高い奴」
「お前が賞金首の名前知ってるなんて珍しいな」
二人の反応に黒装束の女、もといリトゥスはふっと妖しい笑みを浮かべた。
大気中の魔力が流れを変えるのを感じ、リトゥスを見れば彼女の体を翼が覆っていた。
閉じるスピードよりも遥かに早く、瞬時に解放された翼は黒い飛び道具のような羽根の大群を放った。化獣はその羽根の大群をうるさい虫だとでも言いたげに払い除けようと前足を振るったが、それはかなわなかった。
羽根は一枚残らず、まさに凶器となって化獣の前足へ深々と突き刺さっていた。
「この羽根ね、ちょっとでも触れちゃったら血が出るわよー」
その言葉を合図のように、化獣の前足から大量に血が流れた。
化獣の足はもう既にズタズタに引き裂かれて歩くことも叶わないだろう。バランスを保てず化獣はよろめいた。
「強ェ・・・」とヴィルが好奇心からか、顔を輝かせた。
「女なのに強ェんだな」
「馬鹿にしないで。これでも鴉族の戦士なんだから、わたしは」
応戦する気か、化獣は口を開けた。また咆哮か!?と身構えたがしかし、それの口から噴出したのは——火炎放射。
「んぬわぁにぃいいい!!?」
それはリトゥスの延長上にいたヴィルたちにまで届く。否、届きはしない。2人は瞬間にかわす。
振り返ったヴィル。さっきまでいた二人の後ろにあった噴水が、あろうことか干ばつしていたという事実に目を見開いた。
「げぇっ!?どういうことだよ、あの火・・・・・・!!おかしいぞ」
「重々承知」
「だな」
リトゥスとフェルドが冷静に続ける。
突然、尾の一撃。気づいたリトゥスが叫んだときにはもう時既に遅し、フェルドは受身の態勢で吹き飛ばされていた。
そのまま、続けざまにと放たれた後足の一撃でフェルドの身体は地面にのめりこむ。
「ぐッ・・・・・・!?」
「フェルド!・・・・・・んの野郎!もう許してやらんッ!俺は怒ったぞ!!」
「単純なヤツね」
「おい待て、ヴィル!」
しかしフェルドの叱咤はヴィルの耳までは届かず——彼は指をポキポキと鳴らすと構えた。残像を見せる勢いで彼は巨体に猛進。怒り狂ったヴィルの手は青白い雷に包まれている。
何が起きるのかわからないまま、リトゥスはその光景を見ていた。
「〝雷獅子・大牙——【舞踊】!!〟」
ヴィルが叫んだ瞬間、彼の体は掌にあった稲光に包まれた。青白い雷撃が辺りの地面を照らし出し、抉る。
その光明に細める瞳、舌打ちして細めたフェルドの、光のまぶしさに細めたリトゥスの瞳に映ったのは雷獅子。
「そうか、ヴィルが〝雷獅子〟と呼ばれるのはこれのせいなのね?」
「・・・クソッ。あの馬鹿、聞きやしない」
雷獅子は突如、姿を消した。——否、消えた、のではない。消えたかと思えるほどに、動体視力で追いつかないほどに素早く動いたのだ。
光に勝る速度など無い。
為す術も無く、化獣は16方向から次々に打ち抜かれた。雷光は時に蒼く、時に白く。交錯し、踊った。倒れることの許されない、攻撃の乱舞。
「仲間を喰らい、なおも生にしがみつく愚かなる化物よ。
我の仲間を手にかけようとした罪よ。
我の守護神、雷騎士神【ラムオーディン】の捌きにより、消え去るが良いッ!」
「おい」
「砕!」
先祖の思念、魔導士の血に従ってヴィルは魔法を唱え上げる。
その言葉を最後に化獣はうめき声を上げると、首を残して体は砕け散った。それを見、鴉族の女はへたっと座った。
「あ〜、トドメさされた」
「知るか。それよりお前、なんでここに」
何か違和感を感じ、相棒の言葉にヴィルは首をかしげた。
「?知り合いか?」
「知り合いも何も・・・。こいつは、俺の従姉妹だ」
「ええええええええええええええええええええ!!?」
い、従兄妹・・・・・・確かに、似てるかもしれねェけど。
「母は龍族、父が鴉族だった」
「んで、この人の父さんはうちの母さんの兄」
説明され、ヴィルは納得している風に頷いていた。こいつ絶対理解してないだろう、とフェルドが内心思っていたことには気づいていないだろう。
——そしてその三人を見る、銀髪の人物がいた。
