複雑・ファジー小説
- Re: 【2話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【お客様5名来訪!】 ( No.19 )
- 日時: 2012/05/08 22:05
- 名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
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8時30分頃、爽やかな朝の空気を思い切り吸い込んでアリシアは大きく伸びをした。焼き尽くす捧げ物である白鳩をいつもよりも上手く炙ることが出来たため彼女は至極機嫌が良い。
「あ」
公園の中心に位置する大きな噴水を挟み自分と反対側に立つ少年と眼が合った。
「おっ、昨日の酒場のお姉さんじゃないですか」
「アリシアよ。名前で呼んで頂戴」
向こうが手を振ってくるため仕返さねばならないがあまり乗り気になれない。実を言うと今一番会いたくない人物である為だからか。
昨夜の三日月に浮かんだあの笑顔。
「……っう……!」
「え?何、どうしたんですか!?」彼が近づくに連れ焦燥の気持ちが心を覆う。
「でも……私じゃ間に合わない!」
突如泣き出したアリシアを見て少年は焦りだした。
「違いますよね?僕が泣かせたんじゃぁ……」
「……ごめん」
彼には悪いと思うが涙を止める術はなくて。泣きじゃくるアリシアの頭に少年はそっと掌を乗せる・
「 * * * 」
ぶつぶつと囁かれる言葉。
ふいに目の前が白くなるのを感じた。
◆◇
乾いた舌にバニラの甘い風味が染み渡る。
「ホントにごめん。後、ありがと」
「大丈夫ですよ、味はバニラで良かったですよね?」
アリシアの隣のベンチにソフトクリームを片手持ちしながら彼は腰を降ろした。肩までの金髪がさらさらと風になびいて美しい。澄み切るほどに青い空を見ていたら何だか感傷的な気分になってしまう。再び泣き出した彼女に少年は優しく声を掛けた。
「安心して下さい。お兄さんが亡くなったのは貴女のせいではありません。」
「!? なぜそれを……」
訝しげな顔つきなアリシアを見て少年はくすりと笑みを漏らす。
「すみません、考えを少し読ましていただきました」
突拍子もない答え。
「……意外と驚かないんですね」
「ふふ、見当がついていたから」
晴れ渡る青藍の空に映える高い時計台。軋む針の音と共に9時を告げる鐘が鳴り響いた。
「私を運んでくれてありがとう。お陰で少しすっきりしたわ。考えを読んだことも特に怒ってないからね」
「ありがとうございます」
少女は彼を見て朗らかに笑った。
「そうだ、一緒に教会に行かない?」
「この町にあるんですか? 確か十年前に潰れたはずじゃ……」
「立ち直ったのよ、今はキリスト分教であるバルボラ教の地区なの。太陽神バルボラは全てを司る全能の神。さぁ共に祈りに行きましょう。」
ぐいぐいと袖を引っ張るアリシアは心から幸せそうに笑う。
「そうすればもうすぐ、お兄ちゃんも甦るから。」
「————……え!?」