複雑・ファジー小説
- Re: 【5話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【参照100突破!】 ( No.25 )
- 日時: 2012/05/14 18:59
- 名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
6
立ち上がった合成獣はうろうろと壇上を歩き回りデーテモを見つめる。
「お腹が空いたのですかキメラちゃん、じゃああれを始末しちゃいなさいよ!」
指した方角に歩いて行く合成獣。ライオンのような大型の肉食獣に蛇の鱗を組み合わせたような恐ろしい姿だ。まだ生温かい温度を持った真紅の飛沫が空を切り観客達を濡らす。
その恐ろしい牙は神の御業の犠牲となった哀れな幼女の肉を引き裂き喉を抉り骨髄を擂り潰し柔らかな肢体をぐちゃぐちゃに破壊した。
「ほら皆さんも見たでしょう! 死んだキメラちゃんが復活したのを!」
確かにそうだ。幼女の命を貪り、醜い合成獣は蘇ったのだ。
「あなた達の死んだ娘や息子、愛する夫に敬愛する両親。そして親友や恋人まで! バルボラ様は生き返らせてくれるのです!」
大きな声を上げ、のけぞって嗤うデーテモ。その瞳にはすでに救いの光は差さない。
「奉仕をすればする程大切な人が蘇る確率は上がります。金を渡せば渡すほど設備が大きくなりやはり確率は上がる」
合成獣の口から白い骨が吐き出された。幼女、いや幼女の一部であったものが食い尽くされ床に散らばってゆく。
「おや、綺麗に食べましたねーっ!」
上げた手のひらにこびりついた赤を、分厚く肥えた舌で舐め取り彼は頭を下げた。
「これからも供え物を欠かさずに、あとこの御業については口外してはいけませんよ」
下衆めいた笑みの張り付く顔面がゆっくりと舞台袖の薄闇に溶けてゆく。
アリシアは一つ溜め息を吐き出した。
◆◇
「どうだった?」
アリシアが尋ねる。その横顔に影はない。白く白く、無邪気な顔で彼女は微笑んだ。
「気分が、悪かったです」
「うそーっ! あんなに素晴らしい御業なのに!」
「素晴らしくなんかないですよ!」
つい声を荒げてしまう。
「あんな人の命を奪うような非人道的なことをして、あんなのがキリスト教だっていうんですか!? どうせ殺される合成獣をわざわざ創って、幼い子を惨殺して! 最低だ! 命を弄ぶなんて人の領分を超えている!」
「……」
みるみる彼女の瞳に涙が溜まる。年上とはいえまずかったか……。色を失ったアリシアの顔を少年は下から覗き込む。
「……そうだよね」
先に口を開いたのは彼女だった。
「いけないことだよね、分かってる。私だってあんなの……でもこれは償いだから耐えないと……お兄ちゃんは…………うっ…ーー」
狂ったように言葉を淡々と紡ぐアリシアの様子に見兼ね、少年は声をかける。
「話して下さい」
「え!?」
「どんなに苦しんでも構いません。僕が受け止めるから今ここで吐いてしまってください。貴女は過去に囚われている、貴女のような美しい人がそんなに暗く生きるのは勿体無いです」
少年は願いを込めてアリシアを見つめた。
過去からの解放を心から願って、彼は語りかける。
「僕は心を読まない。だから、貴女の口で教えて下さい」
丸い瞳に緩やかな光が灯った。