複雑・ファジー小説
- Re: 【7話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【キャラ絵1うp!】 ( No.28 )
- 日時: 2012/05/15 23:04
- 名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
8
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」
少女の体を茜色が徐々に染め上げてゆく。茶色く盛り上がった土に刺さる木でできた十字架には、亡き兄の名が彫られていた。
「私が……殺したんだ」
手のひらを見つめる。私が病気にならなければ、兄を笑顔で送り出さなければ。
全部私が悪い。
急に自分がおぞましい存在に思えてやまない。肩を抱き服を毟り、少女は只々懺悔をする。
「汚い汚い汚い……! 私は最低だ……。神様どんな償いでも私はしますから! どうかお兄ちゃんを生き返らせて!」
祈りを込めて叫んだ。どんなに傷ついてもいい。体を失ってもいい。
どんなに大きな代償を支払うことになってもいいから、彼女は兄を取り戻したかったのだ。
「お嬢さん」
不意にかけられた言葉で少女は振り返った。人の良さそうな笑みを浮かべた小太りの男が立っている。
「……誰ですか?」
見たことのない奴だ。しかし今はそれどころではない。兄の冥福を祈っている最中なのだから。そう思い男を背にすると再度墓に向き合う。
「新しくこの地に赴任してきた神父、デーテモ=ツガイラです。以後お見知りおきを」
「そんなの知りませんよ! 私は今それどころじゃない!」
差し出された手をぴしゃりとはねのけ彼女は大声を上げた。だがデーテモは動じない。
「どちら様のお墓ですか?」
「……私の兄の……」
しゃがみ込み木に彫られた文字を眺めると、驚いたような顔つきで彼は呟いた。
「貴女は、アリシア=デュークさん……ですよね?」
「何故私の名前を!?」
「有名ですよ。お兄さん、いつも職場で貴女のことを話してましたもん」
「…………!!」
少女の隣に立ちデーテモは言った。
「私は彼の元同僚です。隣で祈らせてもらっても良いですか?」
「……ええ」
しばらくの間透明な時が過ぎ去ってゆく。気がつけば濃紺の夜空が並ぶ二人の影をゆったりと包んで。
「ねぇ、アリシアさん」
「何ですか?」
星もない暗闇で、彷徨う二人は水のよう。まだあどけない顔に影を落とし、デーテモは少女の肩に手をかけた。
「お兄さんを蘇らせたいとは、思いませんか?」
「……え!?」
この出会いが少女、アリシアの運命を狂わせる。
穢れた分厚い手のひらに細い指先はしかと重ねられてしまったのだ。