複雑・ファジー小説
- Re: 【10話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【キャラ絵1うp!】 ( No.33 )
- 日時: 2012/05/24 17:22
- 名前: 茜崎あんず ◆JkKZp2OUVk (ID: 92VmeC1z)
- 参照: 忘却の彼方
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ゴンゴンと大きな音を立てて扉が鳴る。
「何だ五月蝿いな……」
デーテモ=ツガイラはコーヒーカップを机の上にそっと置いた。
壊れものだから。この部屋にあるのは繊細なものばかりである。このカップ一つだって高い金を払い職人に作らせた代物だ。彼の首にかかる金色のネックレスだって指輪だって、全てそう。一般の神父なんかでは一生かかっても手に入らない物ばかり。
私は巨万の富を持っている。死した人々にいつまでも思いを馳せその幻影を追い続ける心の弱い者達を集め、奇跡の御業と称して人を殺しているという事実は確かに彼を苦しめた。だが、直に慣れてしまう。
裕福であるなら良いじゃないか。それに今さら私に縋り付く者を見捨てるわけにはいかない。
デーテモはそう思うことで良心を封じ込める。そして閉ざされたそれは何時の間にか忘れ去られどんどん風化していってしまう。
つまるところ、今の彼に自責の念なんてものはこれっぽっちも無いのだ。
「デーテモ様! お開けください!!」
「慌てるな。お前たちは誰の部下だ? 私についてゆけば何もかもがうまくいくことが分からんのかね?」
それぞれの地区を任せられた神父は、教会に尽くすためのサポートとして自由に部下を設けることができる。彼が我が身を守るために協会に配置している男たちの素姓だって実は超一流の殺し屋なのだ。
強い自分と強い部下達の、情の無い金銭のみで結ばれた最強の関係。負けるはずがない。そう思っていた。
刹那ーー。
「トランセスタ解放。黒魔法第九番『聖譚曲』」
「ぐあっ……!」
一枚壁をはだてた向こう側から部下の悲鳴が聞こえる。床と扉の狭間から勢い良く流れ込むは鮮血。ヒトの匂いがした。自分が何度も何度も味わってきた鉄の香り。急に恐ろしくなる。いや、おぞましく感じられたのだ。死に際の子供達のこちらを呪うような瞳。抵抗を許されない、
恐怖。
「おや、厚そうに見えても以外と薄いんですねこの扉」
耳を擦る金属質の音が響く。ふと、振り返った。
片目を隠した金髪に、十文字の髪留めが二つ。ユダ一族を表す深紅のコート。
柔和な瞳に隠された、突き刺さるような疑いの意。見覚えがある。
「お久しぶりですね、デーテモ=ツガイラさん」
「…………ユダ=サイモンか!」