複雑・ファジー小説

Re: 【11話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【絶対コメ返します!】 ( No.37 )
日時: 2012/05/30 08:40
名前: 茜崎あんず ◆JkKZp2OUVk (ID: 92VmeC1z)
参照: 救済

12

「本当にお久しぶりですね。貴方がナザレに飛ばされてから何年くらい会っていなかったか」
戦闘に関してアリシアは、全くと言って良いほど知識の無い素人だ。しかし分かる。サイモンの体、細胞の一つ一つから染み出す殺気の鋭さは。

「……デーテモ様と何か過去に関係でも?」
「はい、ありますよ」
サイモンは笑顔のまま頷く。
「僕の直接の部下、そう貴女の兄であるアレン=デュークの同期といったところでしょう。年齢差はありましたが実力は同じくらいでしたよ」
「………」
「彼の死にこいつが関わっているかどうかは知りませんが、若いアレンさんの才能に嫉妬していたことは知っています」

デーテモの瞳が少年の後ろに立つアリシアを捉え、その肥えた顔面はみるみるうちに赤く強張っていった。
「言わせておけば………憶測で物を語るんじゃねぇ! 調子乗るなよ小僧!」
「おーや、暮露が出てますよ。良いんですか? 直属の上司にそんな暴言はいて」
サイモンは挑発するように腕を組み、不法に飾り立てられた神父を睨みつける。

「僕の方が貴方なんかより能力も、権威だって上だ。僕に逆らって良いとでも思ってるのか?」
「さぁ。どうせ落とす命。今のうちに踏ん反り返っているがよい」
「はぁ?」

サイモンが首を傾げた瞬間だった。
物陰から飛び出してきた黒い物体が彼に向かって牙を向く。
「いけ、合成獣!」
「!?」
咄嗟に身を躱し急所を外したから良いものの、その破壊力は絶大で。
少年期固有の細い腕に付く筋は噛み千切られ赤の雫が垂れ流されていた。

「ユダ=サイモン。君は此処にくる途中不慮の事故で死亡したことにしておいてやろう。君は生かしては置けん。私の悪行を裁き野望を砕くに違いないからな」

デーテモがぱちんと太い指を打ち鳴らす。あたりに漂う野獣独特の臭み。
「確かに君は私より能力は高い。でもアストラルで生成した合成獣七体に勝るとはどうにも思えないのだよ」
暗闇から現れる七匹。尖った堅い爪先に体表の鱗。並みの刃などでは速攻で噛み砕いてしまえるような強い強い牙がぞろりと並んだ。
「噛み殺されて死んでしまえ!!」

幼子を殺めたあの時のような、狂った笑みを浮かべデーテモは高らかな笑い声を上げる。対してサイモンはといえば至って冷静にいつもの微笑を崩していなかった。
「サイモン君!?」
不安そうな声を上げるアリシアに向かって彼は余裕に掌を振る。
「こんな奴一撃ですよ。安心してください」
「何だと……?」
デーテモの額に青筋が通って。
口を大きくあけ、激昂する。
「悲鳴を上げて逃げ廻れ。そして骨髄まで砕かれて命を落とせよユダ=サイモン! 私はこの国の頂点に立ち世界を手中に収める男、ナザレはその手始めなのだ!」
「……そうですか」

少年の丸い瞳が冷たい光を帯び、デーテモを見据えた。
「残念です。救済措置を取ってやろうと思ってたのに。余地はありませんでした。貴方に待っているのは死のみだ。さっさとかかって来い身の程を知らせてやろう」
「………ぅ………くぅ……っ! 早く行けキメラぁ! 奴を殺せぇぇええぇぇ」

しかし。
「なぜ………うごかないんだ………?」
合成獣達はひくりとも動かず只々首を地に下げる。その様子は何か強大な力に怯えているようでもあった。
「そりゃあそうですよ。僕びんびんに殺気出してますもん気づかない方が馬鹿です。ってことはデーテモ、君は野生動物以下になっちゃうよね」
「ぅぅ………ッ! さぁ早く殺せ! 殺さなかったら私がお前ら全員をぶちのめしてやるからなぁぁぁぁぁぁあぁぁっ」

彼のあまりの剣幕に驚いたのか、合成獣の一体が弾かれたように少年の喉元を狙い飛び出す。
「可哀想に。慈悲を持って一瞬で終わらせてあげましょう」

髪留めを外し、胸元につく銀の十字架にそれを接続させるサイモン。
「何するの……?」
「アリシアさん、前お酒飲んだ僕のこと見ましたよね? あんなんになっても引いちゃ嫌ですよ」

そっと左目にかかる金髪を払う。


「序数解放(メメント トランセスタ)、version First」


一瞬、十字架が強烈な光を放ち世界は白で包まれる。
そしてーーーー。

「嘘……だろ?」
血を流し地に伏せる合成獣の姿がそこにあった。
「誰が……………」
「おい」
息を呑むデーテモの肩を誰かが叩く。

「まだ逆らう気かデーテモ=ツガイラ? これが十三聖使徒ユダ=サイモン様の第一解放だ。
実力はこんなもんじゃねーぞ」
かきあげられた前髪からのぞく赤い瞳。頬に入った13の焼き印。
印象が違う。柔和だったモノが好戦的で刺々しくなっている。アリシアはそう感じた。