複雑・ファジー小説

Re: 【12話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【絶対コメ返します!】 ( No.38 )
日時: 2012/05/28 16:47
名前: 茜崎あんず ◆JkKZp2OUVk (ID: 92VmeC1z)
参照: 崇拝

13

「くそがぁぁああぁぁぁあぁぁぁああ」

天井を見上げ、デーテモは大きく吼えた。

「どうしてだ! どうして………、私は王になる器。人民は私を崇めたて祀るはずなのに………! こんな小僧に私の望みは砕かれるのか」
「そんなこと誰が決めた? さっきから俺見てたけどよぉ。お前どう見ても人の頂点には立てねぇよ」
「うるさいうるさいうるさい……っ! なぜ私じゃいかんのだぁっ!」
「上に立つ者ってのはもう少し下を思いやるぞ。まぁセロくらいヘタれてちゃ話になんねぇけどな」

そう豪快に笑うサイモンに対し、アリシアの表情は曇りがちである。
「……どうしたアリシア?」
「どうしたって……。サイモン君さっきと全然感じが違うっていうか……」
「そりゃあアイツと俺は別人格だからよ」
「はぁ?」
「ユダ=サイモンは十三聖使徒の一人。よって戦闘時に能力を大幅に引き上げる『序数解放』が可能なのだ。その中でも此奴は唯一、解放段階によって人格が変わるという特異体質を有している」

理解し得ない彼女に向かいデーテモが口を挟んだ。
「幼い頃は、各人格が他の存在を認識していなかった。その為、解放前を “0(セロ)” 第一解放後を “1(ファスト)” と呼び分けることで記憶の混乱を避けていたのだ」

「……よくご存知で」
「当たり前だ。君が年幼くして十三聖使徒に上り詰めた次の年に私は本部入団したのだからな。任務にも付き従い共に戦った仲じゃないか。攻撃方法から弱点まで、全て私は知っているよ」
口を歪め醜く嗤う。
その指がパチリと音を立てて打たれた。

「ファストはセロ時よりも数段戦闘力は高まるが知能は別だ。好戦的でキレやすく荒い口調になり冷静な判断が出来なくなるのが大きな欠点」
サイモンの周りを数体の合成獣が取り囲む。デーテモは、宙に跳び逃げようとする少年に手のひらを向けた。
「以前の君ならこんな稚拙な手段、気づいていたはずだ。君は戦闘力のせいで命を失うのだよ。これが解放の穴」
「……ちくしょ……っ!」
「サイモン君!!」
黒い手袋の魔方陣が少年の心臓に完全照準する。

「終わりだ。
トランセスタ解放。黄魔法第六番『雷雨柱』」


アリシアは目を瞑った。
自分を幸せにすると言ってくれた者の終わりなんて見たくない。
生温かい液体が頬に附着する。ぬるぬるとした感触。
ただサイモンの生を一心に願い彼女は神に祈りを捧げる。

「サイモンくん…………………っ!!!!」

「なーに祈ってんだよ。辛気臭せぇな」


アリシアの肩を叩くのはサイモンだった。
「俺様があんな雑魚に負けるわけねーだろ? 合成獣に囲ませて上から魔術で蓋をする。方法も良い。タイミングも良い。でも格が違ぇーんだ」

頬についた血液はどうやら誤って合成獣に噛まれてしまったデーテモのもののようである。
「良かった……」
少女はそっと胸を撫で下ろす。


「アリシアの笑顔は俺が戻す。お前がいるから幸せになれないんだ。前を向こうとしている奴に過去のことを引き摺らせるんじゃねぇ」

靴音を響かせ少年は、尻餅をつく似非神父へと徐々に徐々に、歩を進めて行った。