複雑・ファジー小説

Re: 【13話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【絶対コメ返します!】 ( No.43 )
日時: 2012/05/30 17:07
名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
参照: 苦悩、受難、晩餐、ノットノイズ

14

「聖十字架(クロス オブ シュロス)、分かるよな? お前さんも持ってるだろ」
サイモンは胸元についていた銀色のそれを外す。
教会の構成員はどんな下っ端であろうともこれを身につけることが義務付けられている、手のひら以下サイズのブローチ。これに自分のセスタを込め聖十字架を武器に変化させて戦う。武器の形は小型の銃や短剣など扱い易いもの。武器に魔術の威力を乗せて攻撃するのが普通である。十三聖使徒は体の一部に記された数字の部分を聖十字架で抉ることでリスクの高い解放を行う為、武器の形は殺傷力の高い物が多いーー。こういう物、要は縮小化できる武器なのだ。

「……ま、待て! お前が望むものなんでも与えよう! 金か? 土地か? 何でも良いぞ! だから命だけは……」
「ごちゃごちゃ五月蝿せぇ」

少年の手中に握られたブローチは下の部分がとても尖っている為、短剣としても使うことができる。
「サイモンくん……なにするの……!?」
自分の頬にそれを押し当てた彼に、アリシアは不安げな叫びを向ける。
「大丈夫。直ぐに助けてやっからよぉ!」

13。数字の焼き印部分を深く抉る。
痛い。頭が熱くなる感覚。少年は深い笑みを浮かべ、言った。


「聖十字架解放『大蜉蝣聖鎌(セイント アザール)』」


「………!」

右手に持つは漆黒、大きさは彼の背丈を超す程。左手に持つは赤銅色、大きさは右よりは小さいのだがそれでもやはり彼よりは大きい。美しい二本鎌だ。

惚けた顔のデーテモは恐ろしげに頭を振る。
「嘘だ! そんなはずはない! お前の解放はどうでも良いような小型の短剣だった。なぜそんな美しい鎌を……!」
「知らなかったのか? 十三聖使徒の解放はリスクに応じて、序数解放の時のみ戦闘力の高い武器のなるんだ。お前俺のことなら何でも知ってるとかほざいてたよな……」
喉元に漆黒の鎌を突きつけた。
「まだまだ甘めぇよバーカ」

サイモンは腕を大きく振りかぶる。ステンドグラスから差し込む紅い夕日を背景に、それはまるで一枚の絵のようであった。

「……ぅ……ぐぅ……っ!」


「6匹の合成獣達には致命傷を負わせたが、殺しては無い。つまりお前を襲いにくる可能性だってあるんだ」

肩から右胸にかけて、深い深い十文字をひかれたデーテモ。その息は荒く思考も遠い。

「行こう、アリシア。裁きは終わった」
少女の細い腕を取りサイモンは黒く濃い闇の中の扉へと向かって行く。
「動けない中で圧倒的な恐怖に支配される一晩を楽しく過ごすんだな。貴方に神の祝福が訪れますように」

少年たちは去って行った。
部屋の中に残る蘭々と輝く12個の野生の瞳。

「アーメン」
デーテモはそっと、目を閉じた。